ここは東方指令部指令室。
数人の軍人達が集まりなにやら密談をしている。
「今日エドワード君達が来るという重要な情報を得ました!」
「しかもなんだか機嫌が良いらしいぞ・・・」
「今回は何日滞在するんでしょう」
「来るのが楽しみだな〜」
「久しぶりですからね」
「少し見ない内に可愛くなっただろうな」
と、誰かに対する秘めた想いみたいなことをヒソヒソ声で、ムサイ男どもが固まって話し込んでいる。
***エド争奪戦!!***
エドワード親衛隊。
東方指令部内にそんなものが存在しているらしい。
名前の通り、鋼の錬金術師エドワード・エルリックを愛してやまない者達が、エドワードの行動を把握してエドワードを守ろうとする組織である。
はじめはエドワード達が多く滞在している東方指令部だけだったのが、エドワードの天使のような顏付きや性格面での愛らしさ、皮肉に隠れた素直さ、純粋なまでの眼差しetc・・・。
全てに置いて軍部には存在しない特別なもの。
一人で強烈な光を放つ子供は近寄りがたく、遠めで見る事しか出来ない。
汚れた軍部の大人達には子供の光が強すぎ、捕らわれてしまった。
それらが軍部全体に広がり、今では東方指令部はおろか中央指令部・南方指令部・西方指令部・北方指令部・地方の指令部、その他の軍機関に関するところまで広がりエドワード親衛隊が巨大化したのだった。
男でもアイドルとかす軍部はどうかと思うが・・・。(まだエドワードの性別は判明していないが、主な人物たちは知っている)
「こんにちわ〜」
「お邪魔します」
噂をすれば現れるエルリック兄弟。
兄の方は珍しく顏いっぱいの笑顔で、片手を上げてぴょこっと現れ、弟の方は自分がここにいるのは相応しくないと思っているのか、窮屈な鎧を縮めて頭を下げながら近づいてくる。
兄ほどではないが弟も人気がある。
外見は厳つい鎧の格好をしていながらも声は子供らしい高めのソプラノで、性格は意地っ張りの兄の反対で優しさと誠実さを伴っている。
大人に対して何の引け目もなく接しているところが、また子供らしいと言う者が多い。
声を掛ければ嬉しそうに返事をし、仕事も快く手伝ってくれる。
ピリピリしている軍部内をほがらかにしてくれる役目を担っている。
人当たりの良い弟の方に軍部の人が集まるの、俺の弟が人気ある!!とちょっと間違って、密かに喜んで誇らしげにしているエドワードであった。
突然の訪問ではなく事前に知っていたので、さほど驚くことはなく、むしろ顔を綻ばせて出迎えた。
「いらっしゃい二人とも」
「おう!長旅で疲れたろ。こっち来て菓子でも食えよ」
「僕お茶入れてきますね」
「二人ともどんな旅してきたのか教えてくれよ」
軍人達は自分の仕事を放りだし(もともとなにもやっていなかったが・・・)、エルリック兄弟の方へ歩いて行った。
兄弟も嬉しそうにしていのソファに座りこみ、話をはじめた。
「今回はどこまで行ったんだ?」
「南方の方に赤い水が涌き出るという湖があるって噂を耳にしたんだ!」
「へぇ、それは今回当たりだったって事か?」
「そうなんです!あの赤い水の成分らしきものは、鉱石の中でも特殊な石が粉末状になったものなんです。普通の水より少し粒子が小さいから上手く水の隙間と結合して化学反応を起こし、その所為で水が赤く見えていたという事なんです」
興奮して丁寧に説明するアルフォンス。
「・・・・。それが石に何の関係が・・・?」
なにも分からなく聞き返したが、エドワードはまったく馬鹿にした風にしなくて親切に教えてくれた。
「だから鉱石が珍しいものなんだ。その鉱石を上手く解析・分析すれば、何故水に赤く色づくのかがわかる。」
「赤い色とはありきたりですけど、ありきたりだからこそ調べる必要があるんです。あらたな鉱石の発見なのかもしれませんし、また新しい見方・分析・解析の仕方があるかもしれないんです」
「赤い物は徹底的に調べないとな。解くに鉱石はな」
これが普通の国家錬金術師なら話の通じない馬鹿な軍人には、教えても無駄だろうと鼻をならして去っていくところだ。
なのにエドワードはそんな差別をせず、ホントに嬉しそうに自分が発見した鉱石を説明してくれる。
こんなところがこの兄弟のいいところなのであり、皆が引かれるところなのだろう。
なっと、弟と顔を見合わせて嬉しそうに微笑む姿は年相応で、新しい物を発見した無邪気な子供のようであった。
話の内容はさっぱりだが、嬉しそうな兄弟の姿を見つめているだけで心が晴れやかになっていくのを軍人達は感じた。
「お前達は偉いな!自分の道をつっきて行って」
「あたりまえだろ!!好きで選んでいる道なんだから」
ハボックはエドワードの頭をグシャグシャにかき乱し、クッキーをエドワードの口の中へ放りこんだ。
「ん!このクッキーうまい!誰が作ったの?」
もしかしてホークアイ中尉?と今租借したクッキーを上手そうにほうばりながら、作った人物を尋ねる。
「それ僕が作ったんです」
以外にも今まで二人の話をニコニコ顏で聞いていた、ヒュリー曹長が「僕が作ったんです!」と手を大きく上げて意思表示を示した。
意外な人物にエドワードは目を大きく開いて、
「ホントに?おいしいよ。今度作り方でも教えてくれよ」
こんなんでもやっぱり女の子なのか、満面の笑顔でヒュリーに話し掛けた。
「も、もちろんです!」
ヒュリーは可愛い可愛いエドワードに声を掛けられただけでもなく、クッキーの作り方を教えてくれとせがまれ、気分は舞いあがり今にも踊り出しそうな雰囲気を出していた。
面白くないのはその他の軍人。
二人の様子を近くでバックに悪雲を背負い米神に青筋を立てながら歯をギリギリしたり、眉を歪めたり、自分の足を抓ったりしながら羨ましそうに眺めている。
「この紅茶もおいしいし」
「それも僕がいれたんですよ」
周りの空気を感じとらない二人は、二人の世界に入りこみなごやか〜に話を進めている。
「エ、エドワード君!!その鉱石とう物はどのような物なんですか!?」
無理矢理会話に入ってきたのはなんとファルマン准尉だった。
細い目を精一杯大きくし、なんとか意識をこっちに向けてもらおうと必死だ。
「え?えっとそうだな・・・、資料がここにあるんだ。ちょっと見てくれないか?」
バックの中から分厚くところどころ汚れた資料をとりだし、ファルマンに見せた。
資料を自分の手から完全に離さないところを見ると、かなり貴重な物なのだろう。
だが、そのためファルマンとエドワードの距離が近くなり、その他の軍人たちが声にならない悲鳴を上げて顔を青くしたり赤くしている。
「ふむ・・・・。この鉱石は・・・」
真面目な顔になり、自分の持っている知識をさらけだした。
「見たことあるのか!?」
「いや、これと似たような鉱石がありまして・・・・」
エドワードとアルフォンスはファルマンの話しに身を乗り出して食らいつき、時折うんうん・・・と頷いたりなにやら質問をしている。
他の軍人達は何を言っているのかさっぱりで、ただただ二人の様子を食い入るように見つめている。
くっつきすぎたらただちに引き放そうとしているようだ。
「そうか!!その鉱石は東方指令部の第二研究室に保管してるんだな!」
「ありがとうございます!よかったね兄さん」
お互いの拳をコツンと合わせた。
「おう!捜す手間が省けたぜ。ついでにそこでこの鉱石の研究もしようぜ」
「そうなれば大佐に許可を貰わなきゃ」
そこでいつもは暇ではないのに暇そうにしている上司のことを思い出したようで、目をぱちぱちしながら自分が何でここに来たのかを思い出したみたいだ。
「あ、無能はどこに行ったんだ?いつもならすぐに駆けつけるのに・・・?」
ひとしきり兄弟で感動をしていたため入りこむ隙間がなくて、兄弟愛を眺めていた軍人達は我を争って、
「大佐なら今会議で出かけています」
「ホークアイ中尉も付き添いです」
「もうすぐ帰ってくると思いますよ」
「それまで俺達と話でもしてようぜ」
と、一斉に話し掛けた。
皆さん優しいな〜とアルフォンスは嬉しくなっていた。
大佐ばかりにエドワードの意識が向いているのが気に食わない。
エドワード本人はそんなことなんて考えてもないけれど、周りから見れば大佐には特別な行動ばかりしている。
どんな出会いだったか知らないけれど、自分達が出会った当初から大佐とエドワードは自分達とは違ったオーラをお互いに放っていた。
大佐は構いたくてもどう接すれば良いのかわからなく、子供に冷たく接する事が多かった。
そうするたびに上司が少し凹んでいたことを覚えている。
そのためか子供は、子供特有の笑顔を大佐の前では一度もすることがなく、大佐の前だけの顔を作り出した。
お互い気になって気になっているのは傍から見れば、もろばれなのである。
その中に入れない事に悔しく思ったが、その壊れそうな空気を汚す事もできなかった。
自分達が眉を顰めている間にも、二人は幸か不幸か何の進展もなく時間は過ぎて行った。
そして現在にいたっては・・・・。
「この机手作りなの?」
エドワードの何気ない一言を一早く耳に汲み取ったのは、ブレタだった。
「俺!俺が作ったんだよ!!」
自分の話しだ!!と意気おいこみ、隣に座っているハボックの身体を押し退け、巨体を前に出した。
「へぇ、以外にも器用なんだな〜」
エドワードはクッキーを口いっぱいほうばりながら、顔を近づけ大きな瞳をじっと熱い視線を机に注いでいる。
その机は一見普通な軍部の部品だ。
だがよくよく見て見ると職人が作った物ではない事が分かる。
茶色の机の端の方に可愛らしく模様が描かれているのは、とても細かい芸だ。
アルフォンスもそれが気にいったのか、感覚が分からない手で触り、なにかを感じとろうとしている。
「でもすごいですね。細かいところまで精密に作られてますよ!」
自分の手で直接感じることができないのが悔しいようにも聞こえて、こちらも胸が辛くなる。
「この前大佐がここの机をぶっこわしたから、急きょ俺が作ったんだよ」
苦笑いをしながらも、久しぶりに帰ってきた可愛い妹分のようなエドワードに微笑を浮かべて大佐の失態を教えてやる。
「大佐が?」
「なんでまた・・・」
アルフォンスは心底驚いたような声を出し、エドワードは呆れたように溜め息を吐いた。
「お前らのせいだよ。この前の村のっとり事件関わってただろ」
「え〜知らな〜い」
エドワードは可愛い子ぶって首をかしげ瞳を泳がせる。
姿勢もくねっとくねらせ可愛さアピール。
その動作は可愛いが、今はどうしても可愛らしく思えない。
全員しら〜とエドワードを見つめ、
「南方指令部の憲兵が教えてくれたんだよ」
ハボックは煙草を吹かし困ったように眉を顰めながら、ソファから上半身を乗り出した。
それを聞いてエドワードは途端に表情を一変させ不機嫌そうに「ケ」っとおよそ女の子らしくない言葉を吐いた。
その変わり様といったら、可愛がった猫が恩を忘れて牙を向いたように、涙ぐむような光景だった。
「姉さんそこで怪我しちゃいましてね・・・」
じろりと兄、もとい姉を睨みつけるような声を出した。
エドワードはアルフォンスの視線の先にいる自分を通り越し、「え〜だれ?姉さんって」と横を向いてその人物を探すふりをする。
「それも聞いたよ」
「大佐がその話を聞いた途端怒ってな、この机を壊しちゃったんだ」
「・・・・・・」
兄弟はここに来るのは間違ったかも・・・・そんな表情をした。
「どうやって壊したかはあえて聞かないよ・・・」
諦めたようにプイっとそっぽを向いた。
「でも無事でよかったよ」
「これでも心配したんだぜ?」
「女の子なんだから少しは注意しろよ」
みんなから小言ではなく心配されたことを言われ、エドワードは少し沈んだが、
「うるさい!これが俺なんだから良いだろ!?」
ふんっ!と開き直ったように胸を張るが、軍人達の心配事は減らないだろう・・・。
「でも、机だって軍の部品だから新しいのくれるだろ」
しらじらしく話題を代えた事にあえて突っ込まずに、事実を教えた。
おそらくここで注意をしたとしてもこの子供は大佐の言う事以外聞かないだろうと諦めた。
そう、壊れた机は事務に届け出れば交換してくれる。
一ヶ月に一度いっぺんに業者に注文して取り寄せてもらうので待つことになる。
運悪くその次の日に机を壊してしてしまった。
この机は作戦会議など、休息のために使う事もあるので変わりの物が早く欲しかったが、あいにく変わりになるような机は無かったので、手先の器用なブレタが作ることになったのだ。
「あっ!!俺今から巡回だった!」
しまった!とエドワードの前の席に座っていたハボックが、チラリ見した時計で自分が今日街の巡回だった事を思い出し慌てて立ちあがった。
せっかくエドワードが来ているというのに、この場を離れなければならないのが苦痛だ。
他の者も少しの同情とそれに上回る笑みを浮かべてこの男を見送ろうとした。
それを知っているハボックはギリギリ歯を食いしばり、「俺だってもっとエドと一緒にいたいのに!!」と心の中で叫んだ。
「ハボック少尉も大変だな〜」
少し寂しそうな顔をしたが、仕事だもんな!と笑顔を向けてくれた。
ここで離れれば、この場にいる敵にこの子供を捕られてしまう!!
せっかくの休息の場なのに!!
「ハボックしっかり町を巡回しろよ〜」
「お疲れ様です」
「土産になんか買って来てください」
自分勝手な事を言う同僚と部下。
その顔付きと言ったら憎らしさが心の奥底からふつふつと湧き上がってくる。
邪魔者が消える。
そうなるとエドワードと会話する時間が増える。
会議に行っている二人が帰って来る前に、楽しい時間を過ごしたい・・・。そう思っているのだろう。
そんなの俺だって過ごしたいさ!!
ハボックは涙を呑みこみながら拳を振るわせる。
だから、先手を打たなければ・・・。
「そうだ。エド、軍部の女子に人気のケーキ屋さんがつい最近でき
たらしいんだ」
「えっ!?ほんと?」
ハボックの百面相を面白そうに眺めていたエドワードは、突然自分に話を振られた事に驚き目を瞬くが、自分が大好きな甘い物のお店が新しくオープンした事を聞いて素直に喜んだ。
エドワードが甘い物が大好きなのは親衛隊の中でも周知の事実。
子供が来る時は決まって必ずなにか甘い物とジュースを用意していなければならない、という条約があるのだそうだ。
お菓子を出すだけで顔をほころばせ周囲を和やかにさせる。
そんなエドワードの顔を皆は見たいのだ。
普段は気難しい顔をして、滅多に心を開かない子供。
過去になにを体験したのか知らない、なついたのだってつい最近。
しかもまだ完全に信用してくれていないだろう。
キツイ眼差しの向こうでは何を見つめているのだろうか。
ここに来る時はそんなことを考えられないくらい楽しくさせてあげよう、と。
「一緒に行くか?」
「うん!連れてって☆」
二言返事で承諾し、わくわくしながら深紅のコートを羽織ってハボックと出て行く気満々だ。
その言葉を聞いて愕然としたのが他の軍人達。
せっかくハボックが出て行くのにエドワードまで出て行ってしまうとは。
余計な事をしてくれたハボックに怨めがましい視線を向けるが涼しい顔で受け流して、煙草を取り出しくわえた。
甘い物を考えているような笑顔で身支度をしているエドワードを見ると、とても止められることができない。
悔しいがエドワードが喜ぶ事をしてやりたいので、見送るしかないだろう。
はぁ、と溜め息を吐きながら扉に近づく二人の後を追い、立ちある。
「僕は残ってるね」
「おう!ちっとばかし待っててな」
後ろを振り返り、苦笑いを浮かべながら弟に手を振って扉から出て行った。
いや、出ていこうとしたが扉を開ける直前に、エドワードの鼻すれすれで扉が勝手に開いた。
「おぉ!?」
「あっぶねぇな〜・・・」
急に扉を開けた相手を睨みつけるように視線を移したが、そこにいた人物を見てエドワードは顔をほころばせた。
「中尉」
「あら、エドワード君。お久しぶりね、元気にしていたかしら?」
扉の目の前にいた事に驚いたが、久しぶりにあった妹に微笑みかける。
「俺はいつだって元気だよ!」
中尉は悪戯っ子の様に笑うエドワードの頭に手を乗せ撫でる。
「お早いおつきで、会議はもう終わったんですか?」
内心中尉が現れた事にビビリながらも火を付けていない煙草をくわえ、出かける格好で中尉に少し驚いた風に見せかけ訊ねた。
中尉は肩を竦め、頭痛がするのかこめかみに手を置き溜め息を吐いた。
「えぇ、議題が否定されたの。またやり直しなのよ・・・」
「うげっ・・・。じゃぁ、今日も残業なんっすね」
昨日も今日の会議のための書類作りで残業していた者達は、一斉に嫌な顔をした。
これでは明日も寝不足になってしまうだろう。
「ところで大佐はどうしました?」
大佐と一緒に出席していた中尉は戻って来ていても、会議の指導者の上司が戻って来ていない。
なにか狸親父どもに小言でもありがたく貰っているのだろうか。
「呼んだか?」
中尉の後ろからひょっこり顔を出したのは大佐だった。
帰って来て欲しくなかった・・・。
がっくりと肩を落とすハボック。
これからエドワードと一緒に出かけるというのに、邪魔者が現れてしまった。
この子供を放さなくなってしまうだろう。
全員が立って扉の前にいる光景は何事かと思うが、少し目線を下にさげると、キラキラ光る者が目に入った。
何ヶ月も前に目の前から立ち去ってしまった愛しい金髪の子供。
誰の眼から見ても嫌そうな顔をしているエドワードだ。
大佐と目が合ったらプイっと目線を逸らし、中尉の手を握った。
「鋼の。来ていたのか」
エドワードの表情なんてお構い無しに、柔らかい微笑を浮かべ中尉を押し退けて前に出た。
押し退けられた中尉はムッとして、エドワードの手を引いて大佐から遠ざかった。
「ちゅ、中尉?」
「近づかないでください。エドワード君が明らかに嫌そうな顔をしてますよ」
辛辣な一言を放たれ、少々凹む大佐。
「エドワード君これからどこかへ行く予定あるかしら?ないなら私と食事に行かない?」
大佐の事はまったく無視してエドワードにしか向けない表情で微笑む中尉。
ここを逃す手はない。
またいつどこかへ行ってしまうかわからない。
私だってこの子と一緒にいたいのだ。
ちょっと!中尉!今からエドワードは俺と一緒に出かけるんですよ!邪魔をしないでください!
と言いたいが、口が避けても上官に向かって言えるわけがない。
エドワードが断ってくれる事を願いながら成り行きを神に祈るように見つめる。
「あ〜、今からハボック少尉と一緒にケーキやさん行くんだ」
ハボックの願いが通じたのか、申し訳なさそうに先約のことを告げた。
一瞬光が見えたが、でも、断りかたが悪かった・・・。
ケーキ屋さんに行くって、もろ自分がサボるような事をはっきり言ってしまっている。
終わった・・・。
「ハボック少尉?」
「はい!」
こっちを向かない中尉の声が背筋を凍らせた。
冷汗がどこからともなく涌き出てくる。
思わず背筋をピシっと伸ばし、敬礼をしてしまった。
「貴方は今から巡回なのではないのかしら?」
「はい・・・」
ごもっともです。
返す言葉もございません。
「職務中にどこへ行こうとしていたのかしら」
「・・・・・巡回行って来ます」
なので撃たないでください・・・。
ハボックは諦めた様子で、肩を落としコートを手にとぼとぼ一人で巡回に行ってしまった。
エドワードの横を通りすぎながら、小声で
「今度連れてってやるよ」
「ほんと?絶対だかんな!」
不安そうな、不服そうな顔で自分を見上げていた子供を安心させるように、頭をなでた。
エドワードも連れてって欲しそうだったが、さすがに街を巡回中の軍人が小さな子供を連れて一緒にケーキやさんに入っていくところを見られたら、軍はいったいなにをしているんだ!ということになり兼ねない。
というか、なるだろう。
中尉に止められなければ実行していただろう二人だったが。
そんな悪餓鬼の子供でもある。
「じゃぁ、中尉一緒に食事に行こうぜ」
ハボックを手を振って笑顔で見送り、気を取り直してエドワードが中尉と一緒に出かける約束をした。
「ちょっと待ちたまえ」
ストップの声を書けたのは今まで傍観していた大佐だった。
さっきの中尉の言葉から立ち直って、ハボックとのコソコソ話に少し苛ついたような声で、
「私と一緒に食事に行こう」
大人気なく参戦したのだった。
「えー」
すぐさま嫌な顔とやる気のなさ過ぎの返事を、首を上に向けながら返した。
他の部下達との変わり様に口元を引きつらせながら、手に持っていた資料をブレタの作った机にばしっと力いっぱい投げつけた。
「なんだね、その気のない返事は!」
「だって・・・」
なんだってこの男はこんなにも怒っているのだろうか?
中尉をはじめとして他の部下達は、なんだかいつもの余裕のある上司ではないことに気が付き呆れた。
エドワードは中尉から離れ、じりじり後ろに下がる。
「まだこの前の事を怒っているのかい?」
「別に」
「・・・・・・アレは私が悪かった。すまない」
「別に怒ってないって。もういいよ」
「それが怒っていないセリフと顔かい?」
「しつこ!!」
抽象的な話ばかりでいったい何の話をしているのか、自分達にはまったく分からない。
が、どうやらこの前来た時に大佐がエドワードを怒らせてしまったらしい。
それでエドワードはまだ根に持っていて、大佐とは一緒にいたくないらしい。
困ったものだ。
大佐も大佐で、この子供が自分意外の軍人と仲良くしているのが気に食わないらしい。
自分の物でもないのに、この子供が取られてしまうといういらない心配でもしているのだろうか?
エドワードは誰の物でもない。
たしかに、エドワードの事をイカガワシイ視線で見つめている輩もいなくはない。
それの代表が自分だということに気が付いているのだろうか・・・?
「鋼の・・・」
さっきとうって変わって捨てられた大型犬のような顏で、エドワードを見つめる。
「うっ・・・」
そんな瞳が弱い事を知って大佐は責める。
大佐の思惑通り言葉につまり、うろたえるエドワード。
「君と話がしたい」
観念したように俯いて承諾をした。
「・・・・分かった。俺もあんたに話がある」
「と、言うわけで中尉。鋼のと食事はまた今度にしてくれ」
晴れ晴れと言う言葉がとっても似合う顔で、おおたち周りで振り向きこっちを変な顔で眺めている部下たちに向かって言い放った。
「ごめんね。中尉。せっかく誘ってくれたのに」
無能上司の所為で、無理矢理食事をさせられる運命になった、哀れな子羊が申し訳なさそうに謝ってきた。
そんな顔をされてはこっちが苦しくなってしまう。
この子には笑顔が似合うのに、この無能上司の所為で笑顔が消えることが多い。
そう思うと、長年一緒にいる自分でも殺意が芽生えてくる。
「・・・・分かりました」
中尉は自分の机に向かって数枚の紙を手に持ち、大佐に手渡した。
「今日の会議の資料です。明日の朝までに新しいのを作りますので、大佐の分は御自分で直してください」
冷たく言い放ち、
「明日もいるんでしょ?明日一緒に食事しましょう」
無能大佐に手を掴まれて身動きできないエドワードににっこり微笑む。
「もちろん!」
「できればね・・・」
大佐が不吉なことを言い放ち、いつのまにか持ってきたコートと鞄を手に持ちエドワードの背を押して、金髪の子供を闇が隠していってしまった。
ご機嫌で部屋から出て行ったロイと、不機嫌な表情のエドワードは出て行った。
エドワード親衛隊条約、エドワードに必要以上に近づかない事。
室内に残された軍人+アルフォンスの眼が光った。
**END**
エド子争奪戦でした☆
軍部から愛されているエド子を書いてると幸せになります。大人から一身に愛を貰う子供。
書いてて面白かったです。
*2005.1.20
*2006.2.20 訂正