***小さすぎる錬金術師***
『緊急。今すぐに東方指令部へ来い。』
という簡潔な自分直属の上司、ロイ・マスタングからの突然な電報が南方を旅していたエドワードに届いた。
「あぁ〜やっとついた!長かったな・・。ずっと電車に乗りっぱなしで足腰が痛いぜ」
「でも、苦労して辿りついたんだから、良い情報があるかもしれないよ!」
古びた汽車から降り立った大量の旅人の中に、小さな子供と鎧の格好をした者の姿が見えた。
南部に賢者の石の情報があると聞き、つい今しがた到着したばかりのエルリック兄弟だ。
汽車が二時間に一本しかない田舎で、来るのが大変困難だったため、へろへろになっていた。
が、賢者の石の情報のためにそこの村を走り回る予定だ。
「はぁ!?祭り!?」
「どうりでこんなに人が多いと思ったよ・・・」
やっと文献を見つけた時にはどこの宿屋もいっぱいだったので、嫌々ながら軍施設を使ったのだった。
どうやら、この田舎で年に一度の大規模なお祭りがあるらしい。
なんとタイミングの悪い・・・。
本当は野宿でもなんでもしようと思っていたのだが、アルフォンスが「それは絶対に駄目!!」と、きつく言われたため、しぶしぶそれにしたがったのだ・・・。
軍施設を借り、二人部屋でアルフォンスと一緒に文献を読んでいたら、軍施設の責任者から上記の連絡を受けたのだった。
「鋼の錬金術師のエドワード・エルリックさんですね?」
「はい、そうですが・・?」
扉をノックされたのでドアを開くと、軍施設の責任者らしき人物が恐縮した顔で冷や汗を流しながら立っていた。
せっかく手に入れたばかりの文献を読んでいたのに、邪魔をされてエドワードは機嫌が悪くなっていた。
「東方指令部のマスタング大佐より電報を預かっております・・・」
「大佐〜!?」
エドワードの表情が怒りから驚きに変わる。
ここにくることを連絡を入れたわけでもないのに、どうして分かったのだろうと不思議に思ったが、とりあえず電報を受け取った。
電報を受け取ると軍施設の責任者は、とっととその場から逃げ出した。
こんな野蛮な錬金術師に関わっていたら身がもたないと思ったのだろう。
それを横目で眺めながら、電報の打たれた紙をアルフォンスと共に開いた。
元々どこに行くかわからないし、連絡もしてこないエルリック兄弟だから、軍施設を使ったらそこの責任者は連絡を入れることをマスタング大佐から義務づけられている。
そんなことは知らなかったエドワード達は、何故自分達の居場所がわかったのか不思議に思って首を傾げる。
ロイがこのようなことを軍施設を管理する責任者達に義務付けたのは、ただ単にエドワードが心配だったためだ。
顔を合わせたら連絡をしなさいと、再三言っているのだが生返事だけでちっとも聞き入れないのだ。
お願いだけではなく命令しているのにも関わらずだ。
各地で事件に巻き込まれ、生存も分からない時もある。
その場に連絡を入れても、鋼の錬金術師はいてもどこに行ったかは分からなく、生きているのかも分からないこともある。
というのが常であった。
しばらくしたら何事も無かったかのように、ひょっこりと指令部へ現れる。
無事なのは確認できるが、生存が分からない間は心配をしっぱなしで仕事に手がつかない。(いつもだが、いつも以上に)
叱っても叱っても一向にこっちの心情を分かってはくれないのだ。
心配で堪らないからこそ、このような強硬手段に出たのだ。
大佐という地位を最大限利用して。
軍施設の責任者からロイからの電報を受けとって見た瞬間、エドワードは緊張した。
緊急。
という単語一つだけだ。
余計なことは打たれていない。
どのように緊急なのか、何故緊急なのか分からない。
緊急という単語一つだけなのだから、相当時間が惜しくて余計なことを打てなかったのか、それとも極秘の任務なのかもしれない。
こんなことは今までになかったから、エドワードは焦った。
軍に入ってまだ二年なので軍がどうゆう仕組みで動いているのか、未だわからない。
とりあえずこんな電報を自分に送ってくるぐらいなのだから、自分が必要な事態が起こったのだろうとエドワードは推測した。
「おい!アル!!今から東方指令部へ行くぞ!なんか緊急らしい・・・」
いつになく真剣に言う兄に、緊張をしながらもアルフォンスは頷いた。
ついに、緊急の事態が起こってしまったのだろうか・・・?
軍の命令とはどのような内容なのだろう。
ヤバいことはしなければいいのだけれど・・・。
アルフォンスはどのような命令を兄に下されるのか心配だった。
大佐には文献や情報のことでイロイロお世話になっているから兄弟は急いで東方指令部へ直行することにした。
今南部で調べている文献を投げ出して・・・。
東方指令部へ最短距離、最短時間でなんとか電報を受け取った日から一週間でやって来た。
あの後、急いで最終の列車に滑り込んだのだ。
あの日はその列車をのがすと明日の朝まで待たなくてはならなかったので必死になって駅まで走ったおかげでさらにへとへとに。
一週間という間でエドワードはイロイロ考え込んでいた。
こんなのではたして間に合うのか。
もう事件は解決してしまったのではないだろうか。
それとも自分が来るのが遅すぎて、事態は最悪の方向へ行ってしまったのではないだろうか・・・?
電話をしようにも大佐に繋がらないし、特に東方の街に事件があったようでもない。
それがさらに不安を掻き立てる。
長い汽車の旅で、最悪の事態を想定してしまう。
いつもは快適な(?)汽車の旅も、苛々しながら早く目的地に着くことを待ち望んだ。
汽車の旅から一週間、やっと辿りついたイーストシティ。
代わりゆく季節の風景をじっくり眺めゆくでもなく、慌しく東方指令部へと目指す。
どかぁん!!
「はぁはぁ、・・・大佐!!」
「こんにちは!遅くなりましたが、戻りました!」
ボロボロになりながら司令室の扉を破壊し、意気込んで入った兄弟。
駅から全力疾走をしたので、息の苦しいエドワードの代わりに疲れないし、息切れもしないアルフォンスが挨拶をした。
緊急のためにいつもは指令部に入ってこないアルフォンスもついて来た。
司令室には主だった軍人達が集まってなにかを話しこんでいた。
が、エルリック兄弟の出現により話は中断され、壊れた扉と兄弟を見た。
「鋼の!!」
「エドワード君」
やっと来たかという面持ちの大佐と、壊れた扉を見ながら眉をしかめたホークアイの声が重なった。
が、すぐに真剣な面持ちになった。
軍人達はエドワードが今か今かと待っていたからだ。
その表情を見てエドワードに緊張が走る。
もう手遅れだったか・・・!?
そんなに自分を待っていたということは、自分の錬金術が必要だったのか!?
乱れた息を整えながら、皆がいる大机の前まで早足にやって来た。
険しい顔をしたロイがエドワードに近づき、命令を伝えた。
「私と一緒に軍会議にでたまえ」
ぽかん。
とマヌケな顔をしてしまったかもしれない。
今の自分の顔はとても見られたモノではないだろう。
南部から今調べている文献まで投げ出し、緊急で汽車に乗りこみ、一週間掛けてぼろぼろになりながら指令部へやって来た。
どんな大事件が起こったのかと思ったのに、下された命令は”軍会議に出席”だけだった。
自分はこんなことのために呼び出されたのかと思うと、一気に腹が立った。
これのどこが緊急だーーーーー!!
エドワードが怒鳴り散らす前にロイは、
「今日の四時から始まる軍会議に私と一緒に出席だ。今は昼の零時だから、後四時間しかない」
いやいや、間に合って良かったよ。
このままでは間に合わないかと思っていたからね。そんなことを言いながら部下と笑うロイ。
午後の四時までに身支度を整えなければならないから、早く支度をしろ。と催促をするロイ。
ロイは怒りで震えているエドワードを見下ろしながら命令した。
アルフォンスはあわあわしている。
自分には手におえないと思っているのだろう。
エドワードは勢いよく顔を上げてロイを睨みつけながら、
「やだ!!なんで俺が軍なんかの会議に出なくちゃいけないんだ!!」
激しく抗議した。
予想していた言葉なのか、ロイは深い溜め息を吐き出しながら、
「しょうがないだろう。上からの指示だ」
ホントに困ったようにいうので、エドワードはちょっと詰まりながらも、
「だったらなんでもっと詳しく説明を電報で打ってくれなかったんだ!」
駄々をこね始めた。
「こんなことで急いで帰ってきて損をした!!帰る!」
キーキー小動物のように怒鳴っているエドワードの肩に手を置きながら、微笑ましい光景だな〜と思いながらも、ロイは真剣な表情をしながら最後の命令を下した。
「これ以上駄々をこねると、軍法会議に掛けてしまうよ?」
ピタリ。
今までの抗議がウソのように、エドワードは静かになった。
だが、その瞳には燃え滾るような怒りの焔と、怨めがましい焔が宿っていた。
ロイに対してのと、上層部に対しての。
嫌々ながらもロイの指示に従う動作を示すと、ロイが詳しいことを説明しだした。
「このところ会議の話し合いで行き詰まりがでてきたのだ。新しい意見がほしいということで、国家錬金術師資格試験を最少年で取ったエドワード・エルリックに話しを聞こうということになったのだ」
つまらなそうに腕組みをしながら説明するロイ。
「何で俺の意見なんて・・・」
「なんでもいいから意見を出せとのことだ。上からの決定事項なので私にはどうすることもできなかった」
どうやら大佐から自分を推薦したわけではないことが分かり、ちょっとほっとするエドワード。
何故自分がほっとするのかわからなかったので疑問に思ったが、考えないことにした。
ロイはここでこの話しを断れば、上層部からの自分の評価が一層下がるので、この話しを受け賜らなければならなかった。
あわよくば、エドワードの意見が採用されれば上官である自分の株が上がるというわけだ。
そのためにエドワードに無理を言って呼び出したのだった。
「・・・・・・・・・・・・わかったよ」
ちえっそうゆうことなら・・・、とエドワードはしぶしぶ軍会議に出席することを思いっきり不機嫌そうな顔をして承諾した。
もちろんロイの野望のことは知らないで、上からの無理矢理な指示のためだけということだけを聞いて、だ。
エドワードにとってもここで変に断ってしまえば、せっかく苦労をして(?)取った資格を剥奪されるかもしれないから大人しく従うことにした。
「よっし。決まったな!じゃあ服を変えないととな」
面倒なことが終わったので、口を出してきたのはハボックだ。
不機嫌そうな顔を崩し、子供特有のあどけない表情をしながらハボックに近づいた。
「なんで?」
自分の時との態度の違いに、少しイラっときたロイ。
自分がエドワードに対する対応の仕方が問題があるのに気付いていないのだろうか?
そんなことを考えてるとは露知らず、ハボックはエドワードの髪の毛をかき混ぜながら、
「軍の会議にはめんどくさいことに、軍服着用で出席しなきゃいけないんだよな」
煙草の煙をエドワードとは逆の、上に向かって吐き出しながら言った。
「なんで?」
またエドワードのなんで攻撃だ。
その攻撃に笑いながらも親切に答えようとするハボックだが、ホークアイに先を越されてしまった。
「それはね、軍に対する忠誠心を示すためなのよ」
忠誠心 と聞いて笑顔を引っ込め無表情になるエドワード。
そんな子供に軍人達は顔を見合わせて苦笑いをする。
自分達はいつも着ているのにね。と思いながら。
エドワードだからといって、例外は認められない。
軍服を着ることに抵抗があるエドワード。
表面上は軍に従った形を取っているが、軍服を着てしまうと、心まで軍人になってしまうような錯覚に陥ってしまいそうになるからだ。
軍服を着たくなくて、ぐずぐずしているとロイがまた、
「軍法会議・・・」
言い終わる前に、エドワードは焦って、
「はいはいはいはい!!着ますよ!着ますー!着りゃあいいんだろー!」
やけくそになり、手を大きく上げて飛びはねながら言った。
「じゃあエドワード君のサイズに合う軍服を借りてきますね」
エドワードの微笑ましい動作を見ながらフュリ―曹長が気を聞かせて言い、エドワードにはどこにあるのだかわからない軍服を取りに行ってくれた。
軍服、と聞いてハボックとブレタとファルマンがエドワードに合う軍服なんて存在するのか・・・?と同時に疑問に思ったのだったが、あえてそれは言わずに黙秘した賢い彼らだった。
しばらくして、フュリ―曹長は軍服を一着もってきた。
その軍服を受け取り、司令室から直接つながる大佐個人の執務室に移動して着替えた。
もちろん一人で。
フュリ―の持ってきてくれた軍服に着替えたが、激しく後悔をしたエドワード・エルリック14歳。
あれ〜?????
なんでこんなにぶかぶかなんだ・・?
いやいや、俺が小さいんじゃなくて、この軍服が大きすぎるんだ。
さては曹長、サイズ間違えて一番大きいのを持ってきたんだな。
そうだ。そうに決まっている!!
さぁ、この軍服を脱ごう。
そして、一番小さいサイズを・・・。
じゃなくて!
俺に合うサイズを持ってきてもらおう!!
なんてことを一人でうだうだ考えながら、せっかく着た軍服を脱ごうとするエドワード。
軍服から手を掛けた瞬間に、扉が開いた。
「こら。いったいいつまで待たせるつもりだね?」
いつまでたってもでてこないエドワードに業を煮やしたロイが入ってきた。
軍服を着たエドワードを見た瞬間ロイの動きが止まった。
動きが止まった上司の後から部下たちが、どんな姿になったのだろうと覗き見た。
瞬間大爆笑。
「ぎゃははははっははははあああ!!」
「うわはははー!!?」
「クックっっっク・・・」
「ひーひーひー!!!」
「に、兄さん・・・」
全員腹を抱えて笑いごけた。
息ができなくなるまで存分に笑いつづける。
床を激しく叩き、瞳に涙を溜めながら・・・。
アルフォンスは、兄の格好を見て悲しそうな声を上げた。
エドワードの格好は、まさに軍服に着られている感じだ。
腕の袖からは、手どころか指先が見えていない。
大人の腕首あたりにあたるところで折れ曲っている。
襟首が頬の辺りまできていて、柔らかいほっぺたが隠れていて見ることができない。
ブーツは履いていないでズボンだけだが、そのズボンも大人が着ると脛のあたりなのだが、そこがエドワードの足の裏にあたるらしい。
腰周りも緩いのか、エドワード自身がすり落ちないように支えている。
つまりは全体的にぶっかぶかだ。
はっきりいって可愛らしい以外何者でもない。
笑われたエドワードは怒りまくった。
ぶかぶかの軍服を引っ張りながら、笑って床に撃沈している軍人達にタックルを食らわしている。
本人は必死なのだが、はたから見ればじゃれているように見える。
ロイはというと、エドワードがあんまりにも可愛らしいから思考が停止してしまったのだった。
じゃれているエドワードを眺め、考える思考を取り戻したロイは、可愛いとは思ったが可笑しいとも思ったので、笑ってしまった。
ロイにも笑われたので、ショックを受けてしまうエドワード。
ちょっとは信頼していたのに・・・・・。
同じく床に撃沈したエドワードをホークアイはまぶしそうに見ながら、(ホークアイもエドワードが見ていないところで笑っていた)
「そうよね。男性用はLサイズより下がなかったわね。それじゃあエドワード君に合うサイズはないわ」
エドワードに合う軍服はない。
小さい男性は軍には必要ないから、小さい軍服を作っていない。
Lが着れない男性など何の足しにもならないので、軍には入れないのだ。
通信官や事務官などは別ものとして考えられている。
足手まとい以外考えられない。と、考えられているからだ。
違う意味で撃沈しているエドワードを助け起こしながら、
「女性用ならSサイズがあるのだけれど・・・」
着てみる?と、皆までいわせずに
「結構です!!!」
正気を取り戻し即答するエドワード。
「そう?」
それは残念。と、ちょっとがっかりしたホークアイに御礼を言いながら離れるエドワード。
こんなことを想定していなかったロイは、黙って女性用の軍服を着させればよかった・・・。と、深く思ったのだった。
そこまでは小さくないだろうと踏んでいたのだが、本当に小さかったのだ。
14歳にもなってLが着れないという体格はちょっと、異常なんじゃないだろうか?心配をするロイ。
エドワードは着がえるために、ロイの目の前をノロノロ横切り再び執務室に入ろうとしたが、裾に足が捕らわれ転び掛けた。
そこをロイにすんでのところで助けられる始末だ。
「危ないな;大丈夫か?」
「・・・・・・・」
エドワードはあまりの情けなさに答える気力がない。
そんなエドワードを見て苦笑いをしながらそっと手を放すロイ。
「このままではどうしようもないから、女性用の軍服を一旦着てみたらどうだね?」
ロイは極力優しくそう諭すと、ギロリと凄まじい眼力でロイを睨むエドワード。
「だから、嫌だって!!」
「何故嫌なんだね?女性用も男性用も作りは対して変らない。スカートではなく、中尉が履いているズボンも存在しているのだからいいではないか」
いったいどこが不満なのだね?疑問に思ったことをエドワードに尋ねたが、エドワードはキッパリと
「男のプライドが傷つく」
ロイの目を見て答えた。
たしかに・・・!
強く共感したロイだった。
だが、こんな可愛い顔でも男のプライドがあるのか・・・、どこか心の隅っこでそう考えてしまったのだった。
だが、このままでは会議には出られない。
自分がつれて来ると約束してしまった手前、どうやってでも連れて行くしかない。
しょうがないから、ある作戦を実行した。
「まさか、女性用の軍服でもぶかぶかじゃないのかね?」
エドワードの地雷を踏みつけてしまった。
その言葉をもろに聞いてしまったエドワードは、怒りで顔を真っ赤に染め上げてしまった。
アルフォンスは、あ〜あぁ・・・。と諦めきってしまった雰囲気を出している。
「はぁぁぁぁぁ!!!!!?なんだって!?」
エドワードを挑発して怒らせ、女性用の軍服を着させるという作戦だ。
ロイの胸倉を掴みながら、噛みつくように
「着てやるよ!!着させていただこうじゃないか!!女性用の軍服を!!」
作戦は成功に終わった。
なんて単純な・・・。
床の上でエドワードにタックルをされてた軍人達は寝転び大爆笑しながらも、事態は終結に向かって入ると思ったのだった・・・。
だが、そんなに甘くはなかった・・・。
女性用の軍服を着たエドワードだったが、結果は惨敗に終わった。
頬をぴくぴくさせ放心状態のエドワード。
またまた笑っている軍人達。
ロイは思案していいる。
ここまで来ると笑えない。
むしろ本気で心配になってしまう。
アルフォンスはエドワードをフォローしようと言葉を考えているが良い言葉が浮かばずにただただ兄を見つめているだけ。
男性用よりかはましだったが、裾が長かった。
当たり前だが、軍には子供はいない。
入隊もできない。
たとえ国家錬金術しでもほとんどが成人している大人ばかりだ。
子供用の軍服は用意されていない。
しかもエドワードは同じ年頃の子供よりも体格、身長が低いため、さらに合わないのだった。
ショックを受けているエドワードは可愛そうだが、笑うことが止まらない軍人達。
本当にどうするべきか、笑うこともできないロイは考え込んでいた。
「エドワード君。これを着てみて」
今まで黙ってなにかをしていたホークアイが魂の抜けている、エドワードに一組の軍服を手渡した。
ロイは何を着せるのかといぶかしんだ。
酷い話だが、もうエドワードに合う軍服は一つもないはずだ。
それをエドワードは一瞥し、悲しみに暮れている瞳で受け取り着替えた。
もう何を着ても同じだと半ば諦めていた。
皆の前でも堂々と、トランクスと黒いタンクトップになりながら・・・。
もう、女性であるホークアイの目も気にしてない落ち込みっぷりだ。
だが、ホークアイから渡された軍服はエドワードの体格にぴったりだった。
驚いてホークアイを振りかえるエドワード。
「これって・・・」
「さっきの男性用の軍服をちょっとね」
母親のように微笑みながらエドワードの頭を撫でるホークアイ。
ほわぁ・・、と心の中が暖かくなったエドワード。
エドワードが男性の軍服を脱いだ時からエドワードの体格に合うように調整をしていたのだ。
皆が笑いごけている間に・・・。
ホークアイに多大な感謝をした。
誰かに服を手直ししてもらったのは、母親以来なので嬉しくなった。
そして、また一つホークアイの株が上がった・・・。
でもそれって端から女性用の軍服が合わない事を予測していたということにはならないだろうか・・・。
うまいことやるものだ、さすがは我ら男の中で紅一点の軍人だとロイは心の奥底から感心をした。
のだが、悔しそうに見つめるロイだった。
ただいまの時刻は一時。
エドワードは旅からすぐにここへやって来たため、風呂へろくに入っていないから、シャワー室に行き長旅の汗を流した。
これなら軍服も身につけても良いかな・・・。
と開放的な気分を味わうエドワード。
意気揚々と軍会議に挑む。
どんな難問でも、きやがれ!!どんな問題でもこの俺さまが解決してやるぜ!
いつもより数倍も強気なエドワードに対してロイも、凹んではいたが、珍しいエドワードの軍服姿を拝めて気分が上昇したので、二人して気分最高状態だった。
この会議の議題のほとんどは、ロイとエドワードが解決したという。
**END**
エドワードがいかに小さいかを語った小説でした。ホークアイさんの母性が目立ちまくりでしたね☆
エドワードは筋肉は付いていますが、やはり成長は遅く、14歳なのに背は低い。
なのに顔は大人びてるとか怖いですね。(爆笑&冷や汗)
*2004.7.18