「これ可愛くないかしら?」


「え〜なんだか派手じゃない?まだこっちの方がシンプルだよ」


「これはもっと小さな子がつけるような物よ?」


「小さなって・・・!てか、小さな子もブラをつけるのか・・・・はぁ、」


「・・・・、なに今更ショックを受けるのよ?」


「べっつに〜」


「あ、これなんてエドちゃんに似合うわ!」


「え?どれ?・・・・可愛いけど、どうも・・・全然俺になんて似合わないと思うよ?」


「この青の刺繍の蝶なんてエドちゃんの肌に合いそうなのに・・・。あら、お揃いのショーツもあるわ!これにしましょう」


「決定かよ!!」


「嫌なの?」


「嫌じゃないけど、でも、中尉が似合うって言ってくれるなら・・・」


「そう?いくらでも言ってあげるわ!さぁ、じゃんじゃん選んでいきましょうね☆」


「これなんて可愛いかも・・・」


「ついにエドちゃんから気に入った物が出たわね。・・・・シンプルだけど白のレースが可愛らしいわね。じゃぁ、これも」


「あ!これなんて中尉に似合いそうだよ!黒で大人の女性!って感じがする〜」


「今までにないタイプね・・・。私もちょうど下着一枚欲しいところだったから、買おうかしら」


「買いなよ!絶対似合うって☆中尉の彼氏って幸せだね」


「うふふ・・。そんなことないわよ」







***女の子の日 後半***






女性らしい会話を繰り広げるという具合に、ホークアイとエドワードはどんどんブラとショーツを選んでいった。
ほとんど対の下着だったので、可愛いし上下合わせる必要がなく手間が省けたので楽に決められた。

エドワードとホークアイはにこにこしながら会話をし、手に3,4枚の下着を持ってレジに直行した。


たぶん、またお金は上司持ちだろう・・・。
エドワードは下着を片手にニコニコと邪気の有るような無いような顔つきのホークアイを見ながら思った。
請求書を軍の会計に持っていったら、どんな顔をされるだろう・・・。
とホークアイは一瞬躊躇ったが、まぁ、変態で通っている上官の事だから大丈夫だろう!と根拠のない自信を持って終わった。
どうせ、変な噂が流れるが上官の噂だから自分には関係ない事だと割りきった酷い部下がいた。
が、その変態男の部下でいること自体がやばいことなのだが、エドワードのためだとそこは割り切るホークアイ。(何か変じゃないか?とエドワードは思った)


怪しい軍服の男二人組が新聞で顔を覆い、結構な時間ランジェリーショップの前で佇んでいた。
コソコソしていて、やけに二人の距離が近い。

しかも、女性用の下着の店の前なのに男が待っているというのは異様な風景。
彼女待ちなのかと思うがそれなら一緒に中に入るし、軍服姿なのだから職務中でそのようなことは無いだろうし、捜査だとしても女性軍人を使うことぐらい一般市民でも分かっていること。

さっきのブティックの近くを通った者なら、「またかよ!!」と、思わずツッコミを入れられずにはいられない光景だ。



「おい聞いたか?ハボック・・・」

「ばっちり聞きました〜」

誰もが振り向くような美貌を持った黒髪の軍服男が、隣に立っているこれまた好感の持てる背の高い金髪男にニヤニヤしながら声を掛けた。
顔はいいのだが表情がなんとも厭らしいから台無しだ。
ロイは新聞を読んでいる風を装い、実は全然読んでおらず、背後のランジェリーショップから聞こえる声を盗み聞きしていた。

もはや、犯罪行為。
軍人がこんなことをしていて良いのだろうか・・・。
国の将来が不安だ・・・。
不幸にも道行く人々でこの声を聞いてしまった者が足を速め同時にこめかみに青ざめ、考えてしまった言葉だった。

「あぁ、私のエドワードが私のために今まで興味もなかった下着を私のために着けようと私のために努力をしている・・・」

私に内緒で、なんていじらしい事をするんだ☆

バッチリ中のエドワードとホークアイの会話が聞こえていたみたいだ。
もはや地獄耳だ。
しかも、誰もロイのためだと言っていないのに勝手に勘違い野郎している。
新聞を放り出して顔に手を当て、今すぐ愛するエドワードを振り向きたい衝動に駆られていた。

ハボックもハボックで、

「中尉も下着買ったのか〜。しかも黒の上・下☆」

とかなんとか言ってハボックもハボックでロイの有り得ない言葉を無視して、エドワードの発言に対して頭の中で妄想している。
普段の凛々しい上官の下着がどんなものなのか考えて顔が緩んでいる。
が、とある重大な事実に気付いた。

「中尉って彼氏いるんスか!!?」

ハッと震えた指が持っていた新聞を落としてしまい、顔面蒼白になる。
美しく誰からも好かれるホークアイだが、軍務で忙しいので恋人を作る暇があったら書類を一つでも多く裁くだろうとハボックは決め付けていたので、勝手ながらに彼氏がいないことを決め付けていた。
エドワードとの会話で彼氏がいる事を否定はしていなかった・・・。

俺が知らない間に中尉に誰か言い寄ってきたんじゃないだろうな!?

自分の彼女でもないのに怒り心頭のハボック。
わなわな身体を震わす。
いるかも分からないその男を殴り殺しにしてやると頭の中で良からぬ事を考え始めたのだが、それならば自分の想いを伝えてしまえと思うが、ハボックは告白と言うことは頭の中には毛頭無かった。

どっちもどっち。
彼氏でもないのにノロケるのと、彼女でもないのに自分の物呼ばわり・・・。

あぁ、なんて最低な男達なのだろうか。



エドワードとホークアイは会計を済ませ店の外に出ると、慌てた様子で軍服の男二人組が人込みにまぎれて姿を消したのを遠くから見てしまった。
どっかで見たことある後ろ姿だと二人で頭をひねったが分からず、御飯にしようということでレストランへ行こうと、男達と同様人込みの中へ入っていった。
が、

「あちゃ〜・・・。何だかどこも人がいっぱいみたいだね」

「そうねぇ、どうしようかしら?」

人がいっぱい詰まったレストランを遠くから見て、エドワードは背伸びをし額に手をつけ中を覗きこもうとし、ホークアイは頬に手を当て眉尻を下げ溜め息を吐いた。

今は丁度お昼時。
数件回ったが、大通りのレストランはどこもいっぱいで空きがない様子だった。
待っているのもめんどくさいし、開いている店を探して回る間にも余計にお腹が減る。

う〜ん、と顔を突き合わせて考え込む。

「中尉には悪いけど、その辺の屋台で御飯買って空いてるカフェで食べよう」

エドワードは済まなさそうに言う。
これは毎回エドワードが常用している行為だ。
こんなんでは身体を壊してしまうだろうに、アルフォンスの小言を毎回のように聞きながらも続けてしまっている。

その辺の屋台で御飯を買うのは身体に悪いが、食べるところがいっぱいなのだから仕方がないだろう。
ホークアイもその案に乗り、早速屋台を探して歩いた。

屋台はすぐに見つかったが、長い行列ができているた。
だが、すぐ側の誰でも利用できるカフェのテラスが一席空いているのを目ざとく発見し、エドワードとホークアイはお互いがすべき事がわかり、愛コンタクトをし別行動を取った。

ホークアイは長い列を目指し、エドワードは空いてる席が取られないように大量の紙袋をわさわささせながら猛然と走って行った。
ちゃんとホークアイの荷物も受けとって。

周囲に危険過ぎる視線を飛ばし、周囲をびびらせつつ誰にも場所を取られないようにすると、どさりと席に荷物を投げ出し、椅子に女の子らしからぬ座り方でどん座った。
周りはいきなり来た凄い美貌を持つ少女に圧倒されつつも、その行動をじっと凝視してしまう。
ギャップが凄すぎる。
表情はだらけきった顔付きで、だらりと手足を投げ出し、腕を組んでとても偉そうだがどこかその態度も可愛らしく見せている少女に頬が緩む。

そんな周囲からの視線を気にもせずに、ためていた息をゆっくりを吐き出す。

はぁ、疲れた・・・。

出てくる言葉はそればかり。
実際は楽しかったのだが、どうしようもなく疲れた。
まだ、午前中だけだというのに。
女の子の買い物は長いとは聞いていたが、こんなになるなんて・・・。
と、自分達が買った荷物の数々を眺めため息を吐いてしまった。

でも、良かった。

楽しかった。

こんな女の子らしい格好も久しぶりにしたし、化粧も初めてして・・・。
この格好アルや皆が見たらなんて言うかな?
何だか心がふわって温かい気持ちになる。
お世辞でも似合うって言ってくれるかな?
それに、いつも嫌味ばっか言う・・・アイツも・・・。

ってぇぇえ!!?

何故あいつの顔が思い浮かぶのだ!!
・・・アイツに好きだといわれてから何だかアイツのことばっかり考えてるような・・・。

「だぁ!!やめやめ!!考えるのはやめ!!」

頭をナマハゲの如く振り回しエドワードは叫んだ後、雰囲気を一変し機嫌を良くし鼻歌なんか歌いながらホークアイの帰りを待つことにした。
飲み物も有ったほうがいいだろうと気づき、隣の席の人に荷物をお願いをしカフェの中へ飲み物を買ってこようとしたが、エドワードの視界が黒い影に遮られた。

「?」

不思議に思い、顔を上げたら見知らぬ男一人、卑らしい笑みを浮かべこっちを見下ろしている。

「やっぱりすごく可愛い!ねぇ、彼女今一人?」

お決まりのナンパのセリフをつらつら吐き出す男。
どうやら男はこの席に座った時からエドワードに目を付けていて、話すタイミングを計っていたのだろう。
だが、エドワードには何がなんだか分からない。
見知らぬ人に話し掛けられて、自然に眉に皺を寄せ、口角が下がる。
今まで男の姿をしていたので、いくら可愛くても男にナンパをしてくるやつなんていなかったから、こうゆう経験はなかったから対処のしようがなかった。

そもそも、今自分がナンパされている事にさえ気付いていない。

「は?」

いきなりの事に混乱してしまうエドワード。
返事に困っていると、男は無理矢理エドワードをもとの席に座らせ、自分もその隣の席に腰を下ろし椅子さら近づいて来た。

「一人なら俺とちょっとお話しようよ」

顔を近づけにっこりと胡散臭そうに微笑むナンパ男。
近づいてきた男から身体を椅子の上でズリズリ遠けながら、

「俺一人じゃないから」

さすがに馴れ馴れしすぎる男にちょっと怒り、一人ではない事を言うエドワード。
近づいてきた顔から自分の顔を遠ざけようと椅子を引く。

胡散臭い笑顔は誰かを連想させるが、まったく違う。
こんな安っぽい顔をしていない。
もっと品があるし優雅だ。
雰囲気が全然違う。
何より言葉が幼稚だ。
アイツとは似ても似つかない男の笑顔に、エドワードは無意識のうちにロイの顔を思い浮かべていた。

男は美少女が自分のことを”俺”なんて言うからちょっと面食らったが、こんなに可愛いのだからこの最第一人称なんてどうでもよくなった。
男は気にせずさらに近づいてくる。

「その服可愛いね。君に良く映えてるよ」

気分が急激に降下しているエドワードの服がふいに誉められる。
初めて自分が選んだ女物の服をどんな人間であれ誉められて、悪い気がしないエドワードは恥ずかしがり、

「え、そう・・・かな?」

と、ちょっとはみかみながら喜んだ。
男は一気に気を良くし、脈が有ると踏んでさらにエドワードが食いつきそうな話を話しかけて来た。



「なんだあの男は!!?」

ロイ達はあの後店から出てきたエドワードとホークアイに見つかりそうになり、必死にその場から立ち去って、またも二人の後を追っかけて来たのだ。
人込みからようやっと見つけた時は、二人は別々に行動を始めたのだ。

ロイはテラスのエドワードを、ハボックはちょっと離れた屋台のホークアイを惚れ惚れするように眺めている。
今のエドワードは立っていてもただ座っているだけでも、不機嫌そうに足をだらけさせていても腕を組んで偉そうにしていても、ロイには可愛らしく見えてしょうがない。
いつもそうだが、今日のは特別に可愛い。
それはもう自分以外のものの目に触れさせることを憚りたいぐらいに。
目が離せない状態だ。

両方の真中に突っ立ているから、はっきり言って通行の邪魔だがまったく気にする様子も無くその場に佇んである一点を見つめている二人を三度通る人はもう諦めて、素知らぬ顔で通りすぎる。

だが、アホ面して見ているのも一瞬で終わりを告げた。
エドワードが席についた時から後ろで不穏な動きをしていた一人の男が、エドワードに近づいてきてなんと話掛けたのだ。

ロイが怒り狂った。

何たる事だ!!
私のエドワードに手を出すとは良い度胸だな!!
今すぐ消し炭にしてくれるわ・・・。

ホークアイを眺めていたハボックは、わけの分からぬ大声を上げ発火布を手に嵌めながら猛然とエドワードの方へ向かって行く上官をぎょっとしながら見つめ、慌てて追い掛けた。
周囲の視線を集めている上司の元へ向かうのは正直嫌だったが、ホークアイにばれてしまってはただでは済まされない。

「大佐!!ちょっと今行くのは不味いかと・・!!」

ここでホークアイに見つかったら今まで付けていた事、しかも仕事をサボってまできている事がばれてしまう!
そうなったら明日の命はない。
命は無駄にはしたくないので、大佐をまたまた羽交い締めする。

「ハボーック!!アレを良く見ろ!」

ただならぬ気配で指を向ける先を怪訝そうに視線を向けたら、眼球が飛び出すかと思った。
一人の若き男が死の橋を渡っている。
なんと勇気ある若者だ・・・。
感心して頷いたハボックだったが、何をそこまで興奮することがあるだろうかと、上官を冷めた瞳で見つめる。

「エドワードは私の助けを待っている!!行かせろ!!」

いやいや、待っていませんから。
てか、あなたの存在すら知りませんから。
と突っ込みたくなるほどの暴れっぷり。
手のつけようがない子供のようだ。

だが、離すわけにもいかない。
体格差を使い、どうにか押さえ込む。

「た、大佐・・・ちったぁ大人しくしててくださいよ!!」

どうせこの男はエドワードによって撃退されてしまうのだから。
あんな可愛い格好をしていても、錆びても腐っても国家錬金術師。
これしきのナンパ男ごときに屈するわけもないだろう。
殴られて終わりだ。
それか、この執念深い上司に顔を覚えられていつの日か背後から襲われるだろう。
でも、心配する事のほどではないとは思うが、自分もちょっとは心配していると言う事はよっぽどエドワードの事を可愛く思っているのだろう。
助けてやりたいが、命が・・・。
どうにか自分で切りぬいてくれる事を願い、少しは軍人としてのエドワードに信頼を置いているハボックであった。



「へぇ、そうなんだ」

「ああ!」

ナンパ男とエドワードは何故だが楽しそうに会話が弾んでいる。
男がエドワードに合わせ会話をしているからだ。

と、男は何を思ったか、

「あ、ちょっと動かないで。胸元にごみが・・・」

「え?」

そう言って男はゴミを拾おうとエドワードの胸へ手を伸ばした。

ぱふっ。

鷲掴みのごとくエドワードの胸を掴むナンパ男。
そのまま大きさを確かめるかのようにわずかにうごめく指先。
それがまた知らず知らずのうちにエドワードの鳥肌が立つ。

「な、な、なななな・・・・!!?」

実際はゴミなんてなかった。
ただ胸を触る口述だ。

胸をいきなり触られた事により、頭の中が真っ白のエドワード。
エドワードが固まって動かない事をいい事に、微かに胸を揉み解しながら、

「結構おっきいじゃん」

ニヤニヤしながら不遜な言葉を洩らした。
その後ー

「身長がちっさいから、胸まで小さいと思った」

あはは、と笑いながらエドワードの禁句を言ってしまった。



「ぎゃーーーーーー!!!」

ロイは今まで生きていた中でもっとも最悪な現場に直面してしまったのかもしれない。
エドワードの胸を触りなおかつ揉み解している場面を直視してしまった。
私でさえ触ったことが無いというエドワードの胸を!!
なんたることだ!!
許すまじ!!
大絶叫をし、ハボックを凄い勢いで投げ飛ばし、人間の限界ではないのかと思うような走りでエドワードの元へ直行した。
その手には忘れてはならない発火布がすでに装着されていた。

もう男が死ぬ事が決定した。
ハボックもこの光景を見てしまい、開いた口がふさがらない・・・。
まさか、最近のナンパ男はこれはどまでに大胆だとは・・・。
自分の頃はもっと・・・。
とかなんとか頭の中でぐるぐる考えながらも、ナンパ男に対する怒りで燃え滾っていた。

「エ〜ド〜!!」

上司に続き、走り出すハボック。
自分の命の事はすっかり忘れて大事な大事な妹の下へはせ参じるのだった。



「だーれがミジンコよりも小さい微生物よりも胸が小さい女だって〜〜〜!!?」

ぐぉしゃあぁぁ。

ロイが到着するよりも早くエドワードはナンパ男を力の限り殴り飛ばしていた。
ロイとハボックの目の前で男は口から血を吹きながらまるでスローモーションのように地面に叩きつけられた。

男は、少女なのだから胸を触られ酷い言葉を投げかけたら、いくら男勝りな性格なエドワードでも大人しくなって泣き出すだろうと思っていたから、あんなことをしたのだ。
その後は自分の手腕で場所を移動しいいことをする予定だったのだが、エドワードの思いもかけない反撃に成すすべも無く殴り飛ばされてしまったのだった。

禁句を言った事により、エドワードは覚醒し自分の胸をまさぐっていた男を気付いたら機械鎧の右腕で顔を殴った。
公衆の面前で胸を触られた事を不覚に思い、恥ずかしくなり胸元をかき集めた。
四方から自分に視線の雨が突き刺さるかのように思えて、そのまま雨に溶けてなくなりたい気分になるエドワード。

如何してもっと反応できなかったのか。
悔しくてたまらない。
殺気には聡いのにこういう視線には無用心だと言うアルフォンスの言葉が頭の中で響く。
まさにその通りだと言うことを痛感してしまった。
男の口車にまんまと乗せられ、国家錬金術師である自分を出しぬいた。(ただたんにエドワードが鈍いだけ)
悔しくて悔しくて、たまらない。

目頭に涙がたまる。
こういう場面で周りに誰も知っている人がいないのは不安で不安でたまらない。

辛うじて意識を繋ぎとめピクピクうめいている男を見下し、真っ赤な顔をして肩で息を付くエドワード。
と、ようやく周りを見渡せる余裕が出来たエドワードの視界に、良く見なれた人がいきなり目の前に出てきたかと思うぐらい急激に視界に入ってきた。

ロイとハボックだ。

自分と倒れている男を交互に視線だけ動かしながら呆然と見ている。

「た、たたたたたいさ・・・??しししょしょうい・・・??」

瞳を精一杯見開き食い入るように見返す。
衝撃に口がどもり言葉を発しているのかいないのか自分でも分からないエドワード。

大佐!?大佐??何でどうして!
一人なのは不安でたまらないが、その現場を見られたというのが恥ずかしくてたまらないと、矛盾しているエドワード。
如何してここにいるのだろうか!?
仕事はどうした!?
中尉が早退したことをいいことに二人で遊びほうけているのか!?
いや、軍服を着ているから、仕事中なのか?
視察、視察か!!?
だとしたら凄い偶然だ。

一人パニックに陥っているエドワードの時間は約二秒。

・・・・てか、今の見られた・・・?
この男に、む、むむ胸を触られている無様な姿を。

そう思うと、途端にまた恥ずかしくなり、かぁーと顔が真っ赤に染まっていった。
さすがにいつもは女の子らしくなくまるで男のような格好と振る舞いだが、エドワードもやっぱり思春期の女の子。
性的(?)な現場を知っている大人に見られて、恥ずかしいわけが無い。
なんでこんなことになったのかエドワードは、何故か今あったばかりのロイ達に弁解しようと良すぎる頭をフル回転させた。

ロイ達の方は、助けに行く前にエドワードが殴り飛ばしてしまったから、自分達のやることがなくなってしまっただけで呆然としていたのだが、突然エドワードが真っ赤になったので、なにか男にもっと酷い事をされたのか!!?といらぬ心配をしてしまった。
二人はおさまっていない怒りを、自分よりも弱いと思っていた少女に殴られたことに軽いパニックを起こして動けず地べたに這いずっている男の元へ短調に近づいた。


「貴様・・・、自分が何をやったのか分かっているのか?」

怒りを抑えないで男を見下す美形軍服黒髪の威厳のありすぎる男に見下ろされ、ナンパ男は痛さと恐ろしさのあまり、硬直してしまった。
殺気をあまり知らない素人でも分かるくらいの黒いオーラ(殺気)を放っている。
軍人が一般市民にそんな危険な態度をむき出しにしていいのか!!と周りにいる野次馬たちは心のそこから思ったぐらいだ。

目が笑っていなくマジだ。
このままいくと本当に殺されかねない。

男の身体が本能的にガクガク震えている。
この男の恐ろしさが隠していても分かってしまうのだろう。(隠してないけど・・・)

瞳の据わったロイが練成陣が絵描れた手袋をきゅっと嵌めながら一歩踏み出す。
後ろの金髪で体格の良い男も咥えたタバコを地面に落とし、目を光らせこっちを見殺さんばかりで見下ろす。

どうやら、この二人はこの美少女の知り合いらしい。
しかも、ものすごく親しい。
親しいからといってこんなにも殺意を露にするものだろうか!!ナンパ男はビクビクと二人を見上げることしかできず、もしかしたら自分はとんでもない間違いを侵したのかもしれない・・・。と思うのが精一杯だった
少女はというと顔を両手で覆ったまま微動だにせず、こっちの行動を気にも留めていない様子だ。

もう失神寸前のナンパ男をロイは気にも留めず、さらにトドメを刺そうと手に嵌めた発火布で公衆の面前にもかかわらず、擦ろうとしたが銃声の所為でやめざるを得なくなった。

ぱぁんっ!!

「チッ!!」

すんでのところで指は擦れなかった。

というか、ロイに向けられて発砲された所為で擦るどころか避けることに意識をそがれてしまったのだ。

自分の殺意を止められ、苛々しながら銃声音を辿ると、そこには銃と屋台の食べ物の袋を持った強烈な美女が銃を向けて立っていた。
微笑んでいれば極上だというのに、阿修羅が乗り移ったかのごとく凄まじい顔付だ。
民衆の目の前で一般市民を焼き殺そうとしていたロイ・マスタングの副官のリザ・ホークアイだ。
銃は男とロイと両方向けられている。

リザの存在をすっかり忘れていてさすがに今度青ざめたのはロイとハボックだ。
明らかにホークアイは怒っている。
普段の無表情からは考えられないぐらい表情豊かだで、眉間に皺が寄っていてなおかつ青筋が浮かんで口元はピクピクしている。
ナンパ男、ロイ・ハボック、どっちに対して怒っているのは不明だが、怒っている事は事実だ。
だが、ここで引いては男が廃る!!

「ちゅ、中尉!!これには理由が!!」

自分が正しいと、正当だという事を必死になって弁解しようとするロイ。
ずかずかと近づいてくるホークアイはそんなロイを一瞥して、真っ赤になった顔を小さな手で覆い俯いているエドワードを隠すように目の前に立ち、正面からロイとハボックと相対した。

「分かっています。この男がエドワードちゃんにナンパしてたのでしょう?」

全てを見ていた。
とでもいうように、凍りつくような声色でたんたんを言うホークアイ。
怒りで喚き散らすよりも、このほうが何百倍も怖い。

ナンパ男ともども恐怖に身体を震えさせるロイとハボック、情けない二人組。
銃をナンパ男から外さないで、ロイを見やる。

ホークアイは今日は何だかエドワードと女の子らしい会話ができてとても満足できていた。
それに嬉しく思い、始終笑顔だった。
が、屋台からでも見えてしまった。
始め男がエドワードに近づいた時は、危険だと思ったがエドワードなら何とか対処できるだろうと思い、黙って見つめていた。
(その間ホークアイもナンパの嵐にさらされていた。しかもそれをハボックは気が付いていない無能っぷり)
だが、ホークアイはエドワードの無知っぷりを分かりきっていなかったのだ。
ナンパだと言う事を知らないで楽しげに話し合っていたぐらいだから・・・。
それを知っていたら、真っ先に列を抜け出し男を撃ち殺しに行った所だ。
ようやっと屋台で自分の番がきて、やっぱり心配だったのでさっさと買って屋台を後にした時、あの悪夢が起こったのだ。

驚愕した。
エドワードは呆然としていて、抵抗という抵抗もしていない。
そんなどこにでもいるような少女らしいエドワードの反応を眼にして、一気に怒りが身体全体に駆け巡った。

何故気がついた時自分は駆け付けて上げなかったのだろうか!?
自分の愚かさを悔やんだ。
きっとエドワードは恐怖で振るえているだろう。
これでも女の子だ。
あぁ、なんたることだ!!

気がついた時には走っていて、腰から銃を抜いていた。
標的はナンパ男。
走りながら標準を合わせ、いざ、発砲しようと構えた途端、エドワードが動き男を殴り飛ばしたのだ。

その顔は真っ赤で、どうやらエドワードの地雷を踏んだらしかったことが窺える。
殴り飛ばされた男は階段を落ち、地面に叩きつけられたがホークアイはかわらず標準をあわせる。

一発撃たないと気がおさまらない。

ナンパ男しか眼中になかったが、その時横合いから自分の上司が猛然の勢いで現れた。
あの時見た二人組の軍人はやはりこの人だったのか・・・。と軽く思いながら、銃を発砲した。

この上司がさっきの光景を見ていたとなると、このナンパ男を本当に殺しかねない。
それだけは阻止しなくてはならない。
上司の顔は凄まじいほどの怒りっぷりで、まるで大好きな物を汚され、壊された子供のような顔をしている。
でも、せっかくの大佐の地位を民間人の男を殺しただけで地位を剥奪される事はないが、軍部内では良くない噂が流れ、上に行くために悪影響が出てしまうだろう。
たった一時の感情で殺しては、後が持たなくなるだろう。
不本意でも自分の上官に当たる人間だから、部下の自分がみすみす上司を犯罪者にさせるようなことをさせてはいけない。
たった一瞬の間にここまで考え出すホークアイはさすが当方司令部影の司令官。
ナンパ男の事も許せないが、大佐の心配もしている。
常識と感情と理性をまったく別に動かし、銃を発砲し意識をこちらに向けさせた。

上司と部下は自分の存在を見止め、急激に青ざめたのが遠くからでも確認できることにあきれ返ってしまう。
自分がしていることがわかっているらしい。一つは。
今はもう一つの事は問い詰めないで、今起きた事に対して検討していきたいと思う。

「ちょっと、貴方。今からどうなるのか分かっているのかしら?」

もう愛想笑いをする気にもなれず、ブリザードを周りに振りまきながら地面にひれ伏しているナンパ男に質問をするホークアイ。
その寒さにナンパ男は凍え死にそうになりながらも、

「その、そこにいらっしゃる金髪の美少女に恐れ多くもお声をお掛けしただけで・・・」

今度はスーツ姿の美女が現れ、どうなっているんだ!!と思いながらもしどろもどろに真実ではない事を言ってのけた。

ぷち〜っと、三人の血管がブチギレ、一様に、

「はぁ!?ふざけるんじゃない!!」
「てんっめぇ!!ふざけんじゃねぇ!!」
「ふざけるんじゃないわよ!!」

同じセリフを言った。

「ひいぃぃぃぃ・・・・・」

男は三方から迫られその迫力・殺気・雰囲気に圧され、白めを剥き気絶した。

・・・・・・・。

ナンパ男は気絶したが三人は言い足りないし怒りも全然納まる気配は無い。
俄然言い足りない。
三人は無言で視線を合わせる。

「ハボック、こいつを軍部へ運べ」

「了解」

ロイはハボックに命令をし、ナンパ男を婦女子暴行(!!?)の罪で軍部まで連れて行こうとする。
軍部でまたこの男を甚振ろうとするが、その件に関してはホークアイ・ハボックも同意見なので、黙って頷く。

周囲に人の輪が出来、遠巻きに見つめられているが、そんなことは関係ない。
もう慣れっこだということもあるが、そんなことには構っていられないのだ。
なにせ、エドワードのためだ・・・。
可愛い可愛いエドワードの胸を触った罪は重い・・・。
万死に値する。
三人の心の中は、エドワードを守ったことによる満足感で満たされていた。



あぁ、軍人が騒ぎを起こしている。
一般市民を守るはずの軍人が、一般市民を暴行している。(エドワードは自分でナンパ男を倒したため、軍人の助けは必要なかったと野次馬は考えている)
一部始終を見ていた人になると、口元を引くつかせて今までの事を頭から全て忘れたい衝動に駆られるのだった。
ただのナンパなだけでこんなになるなんて・・・。



ハボックがナンパ男を連れて軍部へと帰っていくのを見届けながら、ロイとホークアイはエドワードを振りかえった。
エドワードはホークアイにくっ付き顔を服に埋もれさせていた。
耳まで真っ赤だ。
可愛いと思いながらも、さっきの事は忘れられないので、凄く心配してしまう。

「エドワード・・・

「大丈夫?他に変な事されなかった?」

ロイのセリフをホークアイが横取りして屈み込み、エドワードを下から見上げる。
横取りされたロイは顔を引き攣らせながもホークアイの横に並ぶ。

ホークアイにも見られたという事が分かってしまったエドワードはますます恥ずかしくなり、正面からホークアイに抱きついた。
ぎゅぅっと、力を込め離れようとしない。
それを見ていたロイは面白くない。

エドワードとしてはロイにあんなところを見られたので、とても恥ずかしくて顔を上げる気にはならなかったのだ。

「エドワード・・・」

ロイが名前を呼ぶとピクリと肩を振るわせ、ますます肩口に顔を押しつけながら、

「お、俺・・・、どうしてあんなことになったんだろう・・・」

消えそうな泣き出しそうな声で言った。

「だって、あんな素人の男なんかに、不覚にも・・・こ、ここ攻撃されて・・・」

さすがに胸を触られたとはいえなかったエドワードは、体術でも秀でている自分の身体を触ったことから攻撃と判断したのだ!

「ごめんなさい。私が傍にいてあげれてばあんなことにはならなかったのに・・・」

ホークアイは恥ずかしさからか不安からか恐怖からか、震えているエドワードの身体を優しく抱きしめ、背中をぽんぽんと叩いてやる。

「中尉は悪くないよ!俺の不覚だから・・・」

ぱっと顔を上げホークアイの顔を見つめるが、横にいるロイの顔を見つけたとたんさらに顔を赤くしホークアイの胸に逆戻りした。
それを見たロイは苦笑いを浮かべながらエドワードの頭に手を置いて撫でてやる。

「気にすることは無い。あの男は私が制裁を加えてやるからな」

ロイの姿と言葉にエドワードはナンパ男とロイを無意識のうちに比べていたことを思い出し、何故そんな事を考えたりしたんだ!!と今更になって羞恥に赤くなった。

大佐に失礼だろう!!

と、頭に大きく浮かんだことに、エドワードは驚いた。
何で今こんなことを・・・。
自分は大佐なんて、す、すす・・・好きなんかじゃないのに!!
なんだかモヤモヤする・・・・。
冷静に考えてみると、自分を冗談でも好きだといった男に一部始終を見られたのだ・・・。
!!!穴があったら入りたい・・・。

でも、大佐はなんだか怒り狂っていたような・・・、あの現場を見て飛び出してきてくれたし、ナンパ男に対しても制裁を加えてやるって言ってくれてることが、なんだか嬉しくもある・・・。
そう思うとさらに顔に熱が集まっていくような・・・
!!!
俺血圧高かったっけ!!?
えっ!?えっ!?
心臓病!?
病院行かなくちゃ!!でも性別が軍にバレてしまう!?(ただ今激しく混乱中)
どうよ!俺??
どうした!!どうした自分!?

エドワードが別のことを考え出して赤くなったその心情をいち早く察知したホークアイは、ロイの意識を別の物へと移させようと、

「大佐。今日は如何してこのような場所に?」

殺気の怒りが幾分か含まれている声色で、ロイに訪ねた。

来た!!

青ざめ、ホークアイの無言の背中を眺めながら、この質問はいつかされるだろうと思っていたが、もしやこんな早くされるとは思っていなかったので、質問に対する答えを用意していなかったのだ。

「あ、それはだね、中尉・・・」

「理由はわかってます。私達の後を付いて来たのでしょう?」

ぎくりと身体を強張らせるロイ。
さっきまでナンパ男を追い詰めていた男の恐ろしさ、上官としての威厳がまるでない。
ホークアイは頭だけ少し振り向き、青い焔が宿った瞳でロイを横目で見た。

「軍部に戻ったらお話があります」

この時ロイの平穏な日常はない物とされた。
仕事をサボって付いて来たのが悪かったのか、盗み見していたのが悪かったのか、盗み聞きしていたのが悪かったのか、エドワードを痴漢の魔の手から守れなかった事が悪かったのか・・・。
全てだろうな・・・。
ふっと、遠い目をしながら、ホークアイとエドワードの後からとぼとぼと指令部へと帰っていく肩を落とすロイ。

そんなロイをホークアイにくっ付いて盗み見したエドワードは口が自然に上がるのをとめられなかった。
何にせよ、大佐は駆け付けてくれたのだ。
それだけでも、嬉しかったな。

困ったように嬉しそうな顔でロイを見ていると、視線に気が付いたロイと目が合ってロイに微笑まれた。
また顔が赤くなってそっぽを向いたエドワードに、ロイは微笑みながら近づいて声をかけた。

「エドワード、その姿とっても似合ってて可愛いよ」

エドワードの今日の姿を見てロイは素直に感想を述べたのだが、エドワードはカッ!!と何故だか頭に血が上って、

「ぅっせぇよぉ!!あっち行きやがれ!!」

ロイが盛大に凹むことを言ってしまったのだった。

あの日を境にロイに対するエドワードの態度がますます悪化したとかしないとか・・・。




**END**



やっと完結しました;;長らくお待たせいたしましたかな・・・?
なんだか最後らへんはあやふやのような;;
とりあえずエド子が女の子の格好をして中尉とお買い物で、ナンパ男に襲われているところをロイさんに助けられる、と。
まぁ、ロイさんは助けてないけど・・・。なんだかヘタレだな・・・。
もっとロイさんをかっこよく書いてやりたいものだ!!

*2005.8.24