***明確な想い***




「兄さんどうしたの?行き成り東部に行くだなんて言い出してさ」

動き出した汽車の中で正面に座っている自分の姉に向かって、僕は疑問に思ったことを聞いてみた。
東方司令部へはいつもは嫌がってい寄り付こうとせず、なにかと理由をつけて遠くの地へ行きたがるのに、今日に限って自ら行くと宣言したのだからおかしく思うのは仕方の無いことだった。
我が姉ながら熱でもあるのではないかと、熱を感じない皮の手でおでこに手を置いてしまったほどだ。

「えっ、え〜?・・・・ただなんとなく、かな」

姉さんは初め何故かアタフタしていたが、急にふっと静まり返り小さく言葉を発した。

この前報告に行ったのはたった一ヶ月前なのに何をしに東方司令部へ行くというのか。
定期報告としては当たり前の事柄なのだが、守っていないのが家の姉。
凄まじいまでに自分勝手の我が侭っぷり。
ある意味尊敬に値しちゃうよ。(他人事のようだけど・・・)

あんなに行く度に嫌味を言われているという大佐にわざわざ会いにいくつもりなのかな?

東方司令部へは大体三ヶ月に一回ぐらいで顔を見せていると思う。
僕はそれは良くないことだと思うんだけど、姉は頑なとして必要以外は東方司令部へは足を踏み入れようとしない。

だいたい定期報告は一ヶ月に一回問うのは通例なのに、それを無視して飛び回っているから大佐はさぞかし怒っているだろうと思っていたが、そうでもないらしいと司令部の人が教えてくれた。
もちろん怒ってはいるけど、頭ごなしに怒ったりはしていないらしい。

姉さんのことを主張させてくれている、と僕は思う。

元気で顔を見せればいいのかな?

命令を無視されているにもかかわらずに、軍法会議にも出さずに僕たちに必要だと思われる資料や文献を調べて提供してくれるし、関わりのありそうな事件も教えてくれて調べに行かせてくれる。
軍属でもない僕も一緒に。

いつも温かく迎えてくれて、温かく送ってくれる。

それが嬉しい。

鎧姿の僕でも分け隔てなく接してくれる。

大人の人は心が広いや。

僕も大人になったら心広い人になれるのかな・・・。

嬉しいから僕は東方司令部へいつでも行きたいのに、姉さんが寄り付かない。

だから今日の朝行き成り行くといって驚かされたけども、実は僕も嬉しい。

「ただなんとなくで行くの?」

でも、理由もなしに姉さんが大佐に会いに行くはずもないからちょっとからかい交じりの口調で聞いてみた。
徹底的に姉は大佐が嫌いなのだ。
顔を見たら盛大に嫌そうな顔をし、嫌味を言われたら数倍にして悪口を返す、近づいてきたら距離をとるし、触られようもんなら殴って逃げ出している。
見ているこっちはアイタタタな光景だ。

そんな行動を取られたらいくら大佐だって気分を悪くしちゃうことに気付いてるのかな〜。
・・・多分気付いてないだろうな。
でも、大佐のことだからそんな反応を返す姉さんを面白がって、毎回やってるのかもしれない・・・。
大佐だから・・・。(どんな理由だよ・・・自分で突っ込んでもな〜)

「そ・う・だ!」

なんだか気に入らない質問なのか、ちょっと眉を顰めプイッと窓の外の景色を乱した。
そんな子供っぽい姉さんに呆れて、

「姉さん・・・」

「姉さんゆうなってば!!」

「・・・・・・」

姉さんだから仕方ないじゃんといいたいところをぐっと我慢する。
思わず言葉にしてしまったらとんでもなく暴れられることは必須だから。
僕にも迷惑だし周囲の人にも迷惑が掛かってしまう。
姉は頭に血が上ると周りのことが見えなくなってしまうくせがあるから、僕が注意しないとね。

まったく、大佐じゃないんだけどどっちが年上なのんだか・・・。

人間の身体だったらたぶん、僕は眉を顰めて唇を尖らせ頬を膨らませていただろう。
そんな事を想像して、楽しくなったと同時に悲しくもなった。

こんな考えはよそう。

楽しいことを考えないと。

そうだ、こんなにじっくりと姉の横顔を見るのは久しぶりだ。

時々気が付いたかのように姉を見ると、はっと目を見張るものがある。

この人はこんなにも綺麗なのだと。

男装をしているのが勿体無いぐらいだと。

もって生まれた金髪金目。
人目を引き付ける容貌。
身内の贔屓目から見ても綺麗で可愛い。

文句無しなんだけど・・・口は悪く粗野で大胆不敵で敵なし状態な姉・・・。

思っていて悲しくなるのだが、性格と態度の所為でとても女の子だとは思われていない。
先入観とは恐ろしいもので一度男だと思ってしまうと、次に会った時は何も考えずに相手にされてしまう。
男扱いされている姉を見ると胸が痛くなる。

姉が望んでやっていることだと知っているけど、やはりなんだか胸が苦しくなる。
鎧の身体なのにどこに胸があるんだ。
痛む胸があるんだと、自分でも思うけど、確かに無い胸が痛むんだ。


どうしてだろうね。


そうそう、姉さんも年頃なんだから誰かを好きになったりしないのかな?

まぁ、僕の姉さんだから男のほうから寄っては来るだろうけど、相手にされないだろうな。
それに釣り合う人なんかそうそういないだろう。

そうだ!

ラッセルなんてどうだろう?

僕と同い年だけどしっかりしてるし、頭もいいし顔もかっこいいし背も高い。

あ、でも姉さんより年下だから姉さんから見たら保護する対象になっちゃうだろうな・・・。
それに年下のくせに背が高いと爆発してたからな・・・。
出会いも最悪だったし・・・。

なんだかな〜・・・。

てゆうか僕がこんなこと考えてるの姉さんにバレたらとんでもないことになりそう・・・。

考えてると気分が沈んでっちゃうよ・・・。
しかもラッセル姉さんのこと今だに兄さんだと思っているらしいから。
撤回したかったけど、姉さんがいいって言ってたっけ。

”余計なやつに自分の性別のことをばらすな”って。

なんだか悲しいや。

自分の本来の性別を隠すなんてさ。

僕は鎧の身体だから、絶対的に肉体が存在しないことを周囲の人に軍部に知られてはいけないことだけど、姉さんは肉体があって隠す必要があるモノなんてぼく達の罪ぐらいなのだから、堂々としてほしい。

この頃体系のことを気にしだしてきたから、いい加減諦めればいいのに。

はぁ、と息が出ない溜息を出すと姉がこっちを向いた。

「どうしたんだよ、溜息なんて吐いて」

「ううん、なんでもないよ。ラッセルどうしてるかなってさ〜」

本当のことを言えば姉さんは怒って悲しむ。

「あぁ、あの偽者ね」

顔を殴られたのをまだ根に持っているのか、頬へ手を寄せて嫌そうな顔をした。
が、そんなに嫌そうではないことを僕は知っている。
同じ年ぐらいで錬金術の話を出来る人間は貴重だし、国家錬金術師である姉と対等に言い合える人だ。
きっと姉さんも嬉しいはずだ。

ほら、ちょっと嬉しそうに笑ってる。

姉さんが嬉しいと僕も自然に嬉しくなっちゃうのは何でだろうね。

ラッセルのことを思い出してるのか、再び窓の外へ視線を飛ばす姉さん。
その表情はさっきの不機嫌そうな顔ではなくどことなしか楽しそうな表情。

ラッセルって今度国家錬金術師の資格取るっていってたから、セントラルで会えるといいな。

だって、旅先で出来た友達だから。


だったら大佐なんてどうだろう?

僕は自分の思いつきににんまり笑ってしまった。
笑う顔が無いなんて言わないでよ!

若くして大佐の地位に付き、子供の僕から見ても将来有望だと思える。
姉さんのことを男だと思っていても、一緒にいる姿はどこか優しい目線でまんざらでもないって感じだし。

そんな視線姉さんはまったく気が付いてないみたいだけどね。

僕たちを見つけてくれて、道を示してくれた人だから、姉さんの心の中にも根強く深く染み付いていることだろう。
頼りにしてるけど、照れで意地っ張りで素直じゃないから喧嘩腰になっちゃうんだよね。

ホントは姉さんどう思ってるんだろ?

少しは柔らかく接するってコトができないのかな?
僕の姉さんは。




******




どんな類の溜息なのか知らないが、アルフォンスは自分では気付かないくらいに何度も溜息を吐いている。
いつもは煩いぐらい報告へ行けと言うのに、東方司令部へ帰るのがそんなに嫌なのか・・・?
気になる・・・。
ココは何か話題を・・・。
ってなんで俺はこんなに気を使ってるんだ!

「な、アル皆どうしてるかな?」

話しかけると、ガシャと金属音を立ててこっちを見る。
それは首を傾げている様に見えて微笑ましく俺は思った。

「う〜ん。皆元気だといいよね」

「そうだな〜。きっと大佐なんて仕事サボって中尉に怒られてるぜ!」

「そんなこと言っちゃだめだよ!大佐だってなんにかと僕たちに気にかけてくれてるんだからさ」

メッと、弟に叱られてしまった。
だって本当のことなんだからしょうがないじゃないか。

大佐はいつもいつも仕事をサボってて子供のように中尉に叱られてるのに懲りないで、また脱走して怒られる。
なんで理解しないのか。
あの書類の山を見ると逃げたくもなる気持ち分かるけど、それが自分の選んだ道なんだから、腹を据えてとり掛かればいいのに。

子供の俺でも自分の道を歩いているのに呆れてしまう。
大佐には大佐の考えがあるのかもしれないけど、それを見せない素振りをしているのか、まったく分からないし、分かりたくも無い。
そこがイラつく原因にも繋がるのも分かっている。

すべてを見透かしているような冷静な視線で俺を見てくる。
見下してくることも少々。
ま、身長は大人と子供だからな!
決して俺がチビだということでは・・・。

かぁー!考えるだけでも頭に血が上る!

さらにあの胡散臭い笑み、むかつく。

涼しい目元なんか見た日にゃ、死にそうになる。

アイツの出す空気に当たると、気分が悪くなるどころか体調を崩す・・・。

でも、無性に会いたくなる。

それが今だ。

どうしてなのか分からないけど、顔が見たい。

みんなの顔が見たい。

大人の顔が見たい。

軽口を叩いて欲しい。

からかってもらいたい。

相手にして欲しい。

この感情をなんと呼べばいいのか。

「僕は図書館に初め行ってくるから挨拶ちゃんとしといてよ!」

「へ〜へ〜」

「返事は一回で”はい”でしょ?」

も〜、姉さんは女の子なんだから!とでも言う言葉があるの鎧から染み出ているから思わず頬杖をしながら苦笑いをしてしまった。

「はいはい・・・」

「だから返事は一回だってば〜」



もうすぐ汽車がイーストシティに着く。

周囲の人たちは降りる支度をし始め、俺たちも支度をする。
といっても、荷物なんてトランクと身一つだから赤いコートを羽織るだけ。
フラメルのコートを。

なんだか気分が軽い。

足取りも軽い。

自然顔も緩む。

天気が青海だからかな。


「行こうぜ」

「うん」



早く。


早く。


何が早くなのか。



元に戻るために早くなのか。



皆に会うための早くなのか。



どっちか分からないけど、足は東方司令部へまっしぐら。





**END**


なんだか意味不明のお話になってしまった。上の話と下の話を繋げるために書いたものなので、矛盾している点がいくつもあるかも;;
変なトコだらけですけど、広くて生暖かい心でスルーしてください!!
なかなか書かないアルフォンス視点。
今度じっくりとアルフォンスの内面の小説を書こうと思ってます。アルはエドよりも辛い筈ですからね。(てか二人とも)
やたらとエド子が可愛らしく表現されてるのは管理人の趣味。エド子は可愛さあまって憎さ0なのです!!(なんだそりゃ!!)

*2005.5.23