***子供の心***



俺はどうしてここにいるのだろう・・・。


ふ、とした瞬間に思うことがある。

宿屋の東側の出窓に身体を半分外に投げ出す形で座っていたエドは、目を通していた文献から顔を上げ空を仰いだ。

平和で喉かな昼下がりの午後。
雲は、もくもくと群れをなして飛んでいて夏だということを思い出させる。
木々は、吹かれる心地よい風に身を任せてさわさわと音をたてながら揺られている。
小鳥たちは、楽しそうに声を鳴らしながら泳いでいる。

どこにでもあるような風景。

心休まる空気の匂い。

思わず寝たくなってしまうような心地よい温度。

そう、平和な風景。

でもそんな平和な世界に自分たちはいられない。

いや、いてはいけないのだ。

禁忌が体を蝕んでいるから。

自分たちの欲望のために禁じられていた人体練成を行い、そして、失敗をした。

自分たちの母親を実験材料と同じ扱いをしてしまった。

そんな自分たちが許せない・・・。

しかも、人体練成の代価で自分の左足と、弟の全身を持っていかれてしまった。
自分が言い出したことなのに、何故弟が体全部を代価に持っていかれてしまったのだ!?
持っていくなら自分の魂を持っていけばいいのに!
弟の魂だけは持っていかせまいと、自分の右腕を代価に魂を近くに有った空っぽの鎧に定着させた。

また、自分は禁忌を侵してしまった。

死んでしまうはずの魂を無理矢理呼び戻した。
弟は嫌だったかもしれないのに、自分のエゴで自分の思い通りにしてしまった・・。

一日に二回の禁忌を侵した。

子供だから。

子供だから許されることじゃない。

無知なことは罪なのだ。

無知だからこそ罪を犯すのだ。

知らなかったでは許されない。

無垢で純粋で、自分のしていることは正しいと信じて疑わない。

子供は愚かだ。

愚かな、愚かな子供達。

愚かな子供だった自分が大っ嫌いだ。

その愚かな子供達はまた禁忌を侵そうと必死になっている。

自分たちの失われた身体をもとに戻そうと・・・。

そのためには錬金術が増幅できる、賢者の石が必要になってくる。
身体をもとに戻しても、また別のどこかが持っていかれるのでは意味がないから、代価がかからない賢者の石を見つけるか、自分達で作るしかないのだ。

そのために、軍の狗と罵られている国家錬金術師の道を選んだのだ・・・。

旅を続けていっても求めている情報は少なく、大佐などにも文献を集めてもらっているが、その甲斐もあまりなくいまだもとに戻れないでいる。

その旅を続けて、もう三年だ。

まだ三年かもしれないが、子供の世界では三年という時間はとても貴重で重要な時間だ。

別に子供らしいことをしたいわけじゃない。
そんな資格はないのだから。

でも・・・。

だが、
真理を見てしまった・・・。

自分はどうでも良いが、弟だけは、アルフォンスだけはもとに戻してやりたい。
自分と引き換えにしても・・・。
こんなことをアルに言ったら、あいつは怒るかもしれない。
いや、絶対に怒るだろう。
怒って、泣けない身体で泣いて、俺をとめようと殴りかかってくるだろう。

俺と違って優しいやつだから。

だから、言わない。
最終手段として残しておこう。

ごめん。アル。

兄として年上として守ってやる立場のアルを、こんな道を選ばせてしまったことをなんとかして正したいと思っている。
正せないとは思うが、もとの身体に戻っていろんなことをさせてやりたい。
いままで感じられなかった感覚を感触を・・・。
ぬくもりを・・・。

心から世界のすべてを感じて欲しい。

俺達が禁忌を侵した罪以上に、周りの人達には幸せになってもらいたいと思っている。

変な考えかと思うが、幸せで罪が消せないだろうか。

こんな俺達に優しくしてくれる人達のためにも。


今は仕事中だろうな。みんな。


詳しいことは知らないだろう人も、全てを知っている人も、笑顔で俺たちを受け入れてくれる。
嫌な顔をしないで、俺達の帰りをいつも心配しながら待っていてくれる。
旅の話も聞いてくれる。
弟のように扱ってくれる。

それだけで俺達は嬉しい。

いや、俺は嬉しい。

大人達は、嫌味なこともいうけど、優しく俺達を包み込んでくれる。

たまには、大人達を頼ってみてくれ・・・。
君達はまだ子供なんだ。
大人の庇護のあるはずの年齢なんだ。

と、頭をなでなれながら言われたこともある。

何で汚い大人なんかに頼らなければならないのだと、大人なんて絶対に信じられないと思っていた。

自分勝手で傲慢で都合の悪くなった時は逃げ出し良いときだけ強気になる。
何事も計算高く頭をめぐらせ、他人に擦り付けることを考えている。

これはある一定の大人たちだと分かってはいるが、大人の考えていることなんて子供の俺たちにはまったく分からない。
俺たちが大人になったらそういう考え方をするのだろうかと思うと、ゾッとして心が落ちる。

親父だって・・・。

でも・・・。

本当に心からそう思っていたら、こんなことなんか考えないだろう。

頭から信じないと、自分で信じている。
こんなことを考えて胸が痛くなるなんて、おかしい。

太陽の光が瞳に当たり、急激に意識が浮上した。 頭を左右に振りぼーとすると余計なことまで考えてしまうなと思った。

自分がしかりしないとアルをもとには戻せない。

こんなことを思っている暇はない。

気合を入れなおすために、今から東方司令部に行こう。
久しぶりに皆に会いたい。
大佐もなにか新しい文献が手に入ったかもしれないしな。

よし。

「アル!今から東方司令部に行こう!」

今まで静かに文献に集中していると思っていた俺がいきなりそんなことを言うのだから、アルは読んでいた文献からエドへ視線を移して驚いた。

「ええ!?いまから!?だってここ、西部だよ?」

おろおろしながら、もう身支度をしているエドに向かって叫んだ。

「いいから!行くぞ!!」

有無を言わさない声で、しかし、しっかりした意思を待っている声で言った。
いつもの兄のわがままに「しょうがないな〜」とぶつくさいいながらも支度をしだした。
そんなアルを見ながら、

自分たちのことだから誰かに頼ってはいけない。

俺達は立ち止まってはいけないのだ。

後ろを見ずに走りつづけなければならない。

でも、
でも、迷ったり疲れたりしたら、休んでもいいと思う。

一息ついて、地面に腰を下ろして、後ろをチラッと見てもいいと思う。

そうしないと今居る自分の場所が分からなくなってしまうかもしれないから。

道に間違ったも正しいもないかと思うけど、俺たちが進もうとしている道から外れた道に進んでいるかもしれないから確かめないと。

だって先は長いから。

まだまだ余裕はあるんだ。

それに俺達はまだ子供だもんな・・・。

誰かに甘えて頼ったりすることは俺の性格上無理だけど、アルだけはそうさせてやりたい。
近くの大人たちに。

鎧の姿で甘えることが出来ないと思うけど、甘えてほしい。

無理をさせたくない。

俺もそのおこぼれをちょっと貰う程度でいいから・・・。

!!?

って、何を考えてるんだ!!俺!!

俺はアルのために生きるんだ!!

なんであんな奴の顔なんて浮かぶんだか・・・。

はぁ〜と、息を吐き出し頬をパシパシ叩いて気合入れ。
考えると無性に会いたくなってきた。

支度を整え宿をチェックアウトし、緑の綺麗な並木を通りながら駅に早歩きで向かっていった。



***END***


なんなんだ。これは・・・;;
恥ずかしいものだな・・・;;
エドの心の内を書いたものなんですが、意味不明で前編と後編が繋がってない・・・;;
しかもエド子でなくてもいいじゃん。てかエド子の子すらでてきてない;;

お目を御潰しいたしました;;

*2005.5.10