***君に伝えたい 後日***




エドワードとロイの追い掛けっこは長く続いたが、結局ロイがエドワードを捕まえて終了した。

ドタバタした追い掛けっこがやっと終わって一息をつく指令部の軍人達。
このまま続けられたら、職務に励めなかったからだ。
錬金術反応の光、騒音、叫び声・・・。
上官に対して使いたくない言葉だが、うるさくて堪らない。

このままいったら指令部が破壊されるかもしれない心配もあったが杞憂に終わった。

大人しくなった鋼の錬金術師を我らの司令官、焔の錬金術師が抱っこして司令室に戻ろうと廊下を歩いている。
あんなに暴れまくっていた鋼のを大人しくさせ、なおかつ抱っこしている。
しかも、鋼のの顔はしょんぼりしているかと思えば、顔がかすかに赤かったり眉をひそめ司令官を睨み付けているかというか・・・口元をもごもごさせている。
司令官は、勝ち誇った笑みとはまた違った笑みを浮かべていた。
至極満足げに。
捕まえた事に満足なのか、言うことを聞かせたことに満足なのかは不明だが、”あの”暴れ餓鬼の鋼の錬金術師をどんなことを言って言い含めたのか気になるところだ・・・。
ますます司令官に尊敬の念を抱く軍人達が増えたという。

「もうそろそろ司令室に着くからな」

「そんなのわかってるよ!!」

ロイはエドワードを片腕で抱っこしながら、どこか心配そうに伝えた。
エドワードは怒ったように声を張り上げた後沈黙した。

これから司令室にいる親しい軍人達に、本当のことを伝えなければならない。
今まで自分が隠していた性別を。





おっ駆けっこの後、エドワードが泣き終わって落ちついてから二人で向かい合い話し合った。

「本当に大丈夫かい?どこか痛いところは・・・」

ロイは泣きやんだエドワードに再度同じことを聞いた。
心配で心配で堪らない。
それに、美しいエドワードの身体に傷が残ったら自分が絶えられないのだ。

「本当に大丈夫だよ。心配性だな・・」

少し腫れた眼でロイを上目遣いで見上げたが、心配されることが嬉しいようで顔がかすかに笑っている。
ロイの脚の間にエドワードの身体が入り込んで、いまだに二人の身体は密着していた。
この姿勢はエドワードは嫌がったが、ロイが頑なとして譲ろうとはしなかったので渋々承諾をしたのだった。
またエドワードに逃げられるのを防ぐためだろう。

その恥じらいを含めた目線にメロメロしながら、

「で、エドワード。答えを聞こうか?」

エドワードの顔を覗き込み、にっこりと微笑みながら答えを求めた。

「へ?答えって?」

口と眼を開き、本気で考え込むエドワード。
腕の中で考え込んでいることに多大なショックを隠しもせずに、呆けるロイ。
二度も自分の告白を忘れ去られるのは悲しい・・・。
男泣きをしたい気分だ。

「あっ・・・」

しばらくしてエドワードが呟いた。
その間ずっとショックを受けてエドワードの肩に顔を埋めていたロイはノロノロと目線を向けた。
そこには、頬を桜色に染めたエドワードの姿があった。

思い出したか!?
ロイはエドワードに尋ねようとしたが、エドワードの方が先に口を開いた。

「ごめん、大佐。文献はいつも大佐が用意してくれているのに・・・。感謝はしているけどなかなか言えなくて・・・。

   いつもありがとうな大佐」

満面の笑みで答えた。

・・・・・・・・・・・?

これは、嫌がらせか・・・?

それにだいぶ前の質問に答えているような・・?

違う!!私の求めていた答えではないよ!!エドワード!!
確かに質問した!したが、その質問はエドワードに触れるきっかけの言葉に過ぎないだけであって、自分が求めた答えではない!
笑っている表情はいただけるが、言葉は受け止められない・・・。

はっきり口にしないと分かってくれないのか?この子は・・・。

満足げな顔をして自分の足の間から見上げてくるエドワードはどこか誇らしげだ。
ロイはエドワードから目線を外して眉を悲痛そうに寄せ溜め息をつく。

そんなロイの反応に、えっ!?なんか違ったっけ!?本気で間違えている風なエドワード。
慌ててまた思い出そうと奮闘している。

だがロイはもう痺れを切らして、この子に任せていたら日が暮れても思い出せまいと、じかに言葉を発した。

「エドワード。君が好きだ。」

三度目の告白だ。
これで伝わってほしい・・・。
真剣な表情で言うロイにエドワードの真っ赤な顔がさらに赤くなった。

「えっ、その、あの・・・」

急にしどろもどろになるエドワード。

エドワードは忘れていたわけでも嫌がらせでもなく、故意に思い出そうとはしなかっただけだ。(ということは嫌がらせか?)
自分からこの話に触れたくなかったが、ロイが何とか自分の口から出させようとしたのに気付いて、わざとしらばっくれていた。
そもそもロイは自分に対してホントに想ってくれているのか疑問だったから。
間違ったことを言ってしまったら自分が恥をかくし・・・。
自分にそんなことを思う権利はないけど、ロイの気持ちが知りたかったのだ。
だから悪いと思いながらも、ちょっと騙した風に言ってみたのだ。

「君は私のことをどう思っているのか聞かせて欲しい」

エドワードの腰を引き寄せて耳に息を吹きかけるようにささやくと、びくっとエドワードの身体が震えた。
それは恐怖の震えではなく、気持ちがよくて身体が反応したのだと分かると、震えるエドワードの身体が可愛くてさらに自分の方へ引き寄せるロイ。
エドワードは膝立ちして、ロイに凭れ掛かる形になった。

「俺は、大佐のことは・・・」

エドワードは言いながらどう答えようか迷う。
大佐のことは実際には好きなのだ。
決して嫌いではない。
だが、この気持ちは伝えられない。
こんな皆を騙している自分が大佐の気持ちに応えてもいいのだろうか・・・。

それに自分は禁忌を犯した罪深き者。
魂も肉体も穢れきっている。
軍部で上を目指す大佐には絶対的に釣り合わない。
似合わないのだ・・・自分は。

何度も何度も自分に言い聞かせ戒めてきているのに。
罪の沼に自ら浸かり、それに甘んじているようにしか自分にも思えない。
こんなに自分を傷つけその感情に浸っている自分が憎い。

それに、元の身体に戻るという目的も存在しているし、弟のアルフォンスを裏切るようなことはできない・・・。
あいつを残して自分だけ幸せになるなんてこと考えたくもない。
身も泡立つ。

だから、

「大佐のことは好きだけど、そうゆう風には見れない・・・」

そう言うのが一番いい。
逃げているという自覚はある。
大佐は俺のこと好きだと言ってくれるのは嬉しいけど、自分で言ってて悲しくなるけどそれは一時的な勘違いかもしれない。
ただたんに珍しい機械鎧をつけている女の子供がいて、その子供にちょっと興味が沸いたから試しに付き合ってみようとしただけかもしれない。
恋と勘違いをしているのかもしれない、とエドワードのほうが勘違いをしていた。

この思いがロイのことを屈辱しているとも知らずに。

そんな勘違いをしているエドワードの想いにはちっとも気付かないロイは、

「私のことは好きなのだな!」

よし!と、何故か喜んでいるロイ。
慌てたのはエドワードだ。
確かに”好き”だと言ったがその”好き”ではないのだ。
勘違いっぷり甚だしいロイの厚い胸板を押しのけて、ロイの顔を難しい顔をして見た。

「違う!!恋愛対象としては好きじゃない!」

犬歯が見えるほど口を大きくして、激しく否定するエドワードの言葉がロイの胸にぐさっと、胸につき刺さった。

「わ、わかっているよ・・。そんなに激しく否定しなくても・・」

困ったように笑いながらエドワードの肩に手を置くロイ。
今だ眉を潜めているエドワードの顔に息がかかるくらい近づき、

「これから、私のことを恋愛対象として見てくれればいいのだよ」

「はぁ!?なにいってんだよ!!」

お互いの瞳に自分の表情が映る。

「私のことは好きなのだから、恋愛対象として見るのが変わるのはできるだろう?」

「だ、だから・・」

「なに、心配することはないよ。私に惚れるのは時間の問題だからね。必ず惚れさせて見せるよ」

はっはっは。

豪快に笑うロイ。
呆然とその成り行きを見つめるエドワード。
この男は何を言っているんだ・・・。
どこからそんな無駄な自信が沸いてくるのか見当も付かないし、考えたくも無い。

それに惚れさせて見せるといったが、もう惚れている感情に近いのでこれ以上惚れることは無いだろう。
言うなれば、自分の気持ちがロイに漏れてしまう事が第一に恐れることだ。

そのままロイの強引の成すままに、司令室にいる軍人達にも本当のことを話すことになったのだ。

で、冒頭部分につながるのだった・・・。



司令室の前までくると、エドワードは暴れた。

「いい加減降ろせっての!!この変態佐め!!」

何故ロイがエドワードを抱っこしているのは、魂が抜けた状態になってるたエドワードをロイが嬉々として勝手に抱き上げたのだ。
中庭で抱き上げてから本館の廊下に入るまで気がつかず、廊下に入ってようやっと気が付いたのか暴れ出したのだった。
それを宥めるのも一苦労。
人目をはばからずに、ロイの腕の中からどうにか抜け出そうと暴れまくり、声を張り上げたのだった。
降ろしてもいいのだが、このままどこかへトンずらしてしまいそうなので拘束することにしたのだ。
前科があるから。

暴れた所為でエドワードの身体が床に落ちそうになり慌てて抱きなおそうとして、支える手の場所を変えた先が、運悪くか運よくかエドワードの胸だった。

むにゅっ。

と、触り心地のいい感触がロイの手の平から伝わってきた。
あ、思ってたよりも大きい・・・。
なんてことを心の中で喜んだが、固まっていた瞬間さらに叫び声を響かせたエドワードを宥めようと、胸から手を離し腰を支えようとしたが、また在らぬ所をしっかりと触ってしまい、グーで殴られてしまった。
しかも機械鎧のほうで。
殴られたところを抑えながら、何とか力で押さえつけたエドワードを片腕で持ちながら司令室へとやっとこさ着いたのだった。

エドワードはあの後、大人しくなり痛いぐらいの視線とロイにしか聞こえない罵詈増怨を口にしていた。

自分にとってはとっても気分がいい出来事だったので大満足でエドワードの言葉を右から左へと流しているロイであった。

だが、暴れに暴れまくったエドワードを抱えるのを見ていた周囲の軍人たちの視線が痛かった。

まるで私を人攫いのように見ていたな・・・。

軍人達の目線が冷たかったのは気のせいではないだろう・・・・。





「ほら、エドワード深呼吸。深呼吸」

にっこり笑ってエドワードを床へ下ろす。
そんなロイをウザそうに一瞥し、目の前の司令室の扉を見た。

その扉はいつもよりも数倍大きく見えてしまったのは、心の弱さの現われなのかもしれない。
エドワードの表情は強張っていて、ロイの言うことを聞くのは尺ではないが落ち着かせるために大きく深呼吸をした。

緊張する。

これから自分の本当の性を告白しなければならないのだ。

今まで仲良くしてくれた人達に。

優しくしてくれた人達に。

今まで騙していた。

信じてくれるだろうか?

認めてくれるだろうか?

嫌わないでいてくれるだろうか?

黙っていたことに軽蔑しないだろうか?

そして、これからも優しくしてくれるだろうか?

話してくれるだろうか?

笑顔を向けてくれるだろうか?

あの心地よい空間をまた体感したい・・・。

ぐるぐるとマイナスな方向へ物事を考えてしまうのはエドワードの悪い癖だ。
いつもは前向きな姿勢を惜しみも無く曝け出しているというのに、心情関係になると途端に弱気になる。
何故そこまで悪いほうへと考えるのかロイには理解が出来なかった。

扉の前でいつまでたっても入ろうとしない恐怖のためか青ざめたエドワードを静かに見守るロイ。
これはエドワード自ら言い出さなければならないことなのだ。
辛いだろうが可愛いエドワードの手助けはできない。

こんなことになったのも自分の責任だ。

自分で播いた種は自分で刈り取らなくてはならない。
初めから騙さなければ、こんな想いをしなくてもすんだのに・・・。

エドワードのことだから国家錬金術師の資格の書類の性別欄の所には女性と記して、ただ男の格好をしていただけなのかもしれない。
頭の良い彼女のことだ、ばれた時のために、軍部の方が書類不備として間違えるのを予測していたのだろう。
それに性別が判明する前に賢者の石を見つけ出して、もとの姿に戻って軍部から姿を消すつもりだったのだろう。
それならば誰にも気付かれずに終わる。
そして、姿を消してからは本当の性で生きていくつもりだから、軍部に見つかる可能性はほとんどないに等しい。
幼いながらもどこまでも頭の回る子供だ・・・。

「エドワード・・・。私の部下達は君を拒絶はしないよ。それは君もよく知っていることだろう?」

だから自分でその扉を開けなさい。

扉を押すのはこの子だが、ちょっとぐらい手助けをしても罰は当たらないだろう。 こんなに固まって、怯えて身体を震わせているエドワードは見たことはなかったから。 軍部の者を騙していたという負い目があり、極度に緊張しているエドワード。

こんなもの負い目でもなんでもないというのに。
そんなに自分を卑下して欲しくない。
少しのイラつく感情がロイの中に流れる。

だが、自分直属の部下はそこら辺のただの軍人ではない。
自分が目を掛けて、育ててきた部下達ばかりだ。
信頼はできる。
自信はある。
たとえどんなことがあったとしても、自分達の部下はエドワードのことは見捨てないだろう。
さっきのエドワードを追いかける自分から、上司である私ではなくエドワードを守ったのだから。

今までエドワード達は旅の中で巻き込まれた事件のことや、怪我のことで軍人達を驚かせ心配させてきたのだ。
いまさらこの程度のことでは驚かないのではないのだろうか?そう思うロイだった。
むしろ喜んで受け入れそうだがな・・・。

ロイのその言葉を聞き、ハッとしたエドワード。

そうだ。
ここにいる人達は大抵のことでは驚かない。
俺の言ったことを大佐の言葉よりも信じてくれるし。(ココ重要)
このことだって、しっかり話せば分かってくれるかもしれない・・・。

エドワードの瞳の色が増した。

司令室の扉をノックして、返事を待つでもなく勢いよく扉を開けるエドワード。

ばぁん!

扉を開けると、軍人達は机に着いて各々の仕事をしていた。
今まで静かだった空間に凄まじい扉の開ける音にビックリするのは仕方の無いことで、一斉に開かれた扉へと振り向く。
そのには口を一文字に結び、険しいがどこか悲しそうな色の瞳をしたエドワードの姿と、その隣にはエドワードを追い掛け回していた自分達の上司。
何故かニコニコ笑っている。
純粋な笑顔というロイにはとっても似合わない笑みで部下は口ばかりか顔も歪める。
これから起こることを予測して笑っているのかもしれないことに気付かず。

ツカツカと皆のいる机まで無言の早足で歩くエドワード。
ゆっくりとその後をついてくるロイ。
詰る雰囲気と和やかな雰囲気が合間まらず二つの温度差が激しい。
その場にいる軍人達も、先ほどから何時もの雰囲気ではないエドワードを凝視しながら机を立ち、エドワードの周りにわらわらと集まった。

「エドワード君。さっきはどうしたの?大佐になにかされたのかしら?」

ただならぬ雰囲気のエドワードにホークアイがまず近づいて、ピタリと止まったエドワードの目線を合わせるように膝を降り、さっきの出来事の原因をエルリック兄弟に対してだけの優しい声色で先陣を切って尋ねた。

「ちょっと君ね・・」

第一声がそんな言葉だったため、派手にずっこけるロイ。
部下になんと言われようだ。
さすがのロイも少し凹む。
そんなロイをホークアイは一瞥し、極めて怒りの篭った声を出し大佐に詰め寄る。

「さぁ、大佐。エドワード君に何を言ったのかしら。教えてください」

コトと次第によっちゃぁただではおかん!!と言う裏の声が聞こえてきて、上官とも思わぬ物言いだけにロイは迫力負けした。
ホークアイの迫力にちょっとおされ気味のロイに、さらに追い討ちがかかる。

「さっきから心配だったんっすよ?大佐が大将に何か悪いことをしていないか・・・」
「悪いコトって・・・」
「なんか変な練成音が聞こえるし、軍人達の叫び声やら何やらが・・・」
「ここまで聞こえてきて、仕事に集中できませんでしたよ」
「エドワード君、にかされませんでした?大丈夫?」

ハボック・ブレタ・ファルマンにフュリ―までが加わり、全部ロイに対しての非難の声だった。
全ての非はロイにあり!!そういってるようだ。
ぐっ!!と言葉に詰まりなにも答えないロイに業を煮やしたのか、(皆から非難されてショックを隠しきれていない)
場合によっては・・・、と腰の後ろへ手を回すホークアイを見て、青くなりながら口元をヒクヒクさせるロイ。
汗が滝のように流れ出る。
どうして自分はこうまで部下から信頼がないのかと焦っていた。
自分が仕事をサボってばかりだということに決して気付かないロイであった。

その光景を今まで黙ってみていたエドワードは、ストップの声をかける。

「待って!あの、その、・・・悪いのは俺なんだ・・・」

やっといった言葉がこんな言葉だった。

もっとしっかり言いたいのに、ちゃんと伝えたいのに上手く口が回らない。

声が上ずり自然と声色が高くなる。

視線が定まらなくきょろきょろしてしまう。

息が、乱れる。

身体が熱いし顔に血が上るのが分かる。

皆を前にして頭の中も真っ白になる。

でも、皆さっきのことで大佐を責めている。
あれは俺が勝手に逃げていただけなのに、大佐が責められるのは我慢ならなかったのだ。
確かに大佐が俺に詰め寄ったのもいけなかったのだけど・・・。
密かに思うエドワードだが、あえて今は言わないでいる。(後で中尉に言うつもりだが)

軍人達は驚いて視線を呆けているロイからエドワードへ移した。

「どうゆうことなの?話してくれる?」

このままでは気になりすぎて、職務に身が入らない。
気になることは即解決!!のホークアイ。
それに、エドワード自らロイを庇うことに驚きを感じながらも、なにかを言おうと必死になっているエドワードの言葉を優しく問いただす。
ホークアイの助けもあり、後ろのロイからの暖かな目線に見つめられて(復活した)、言葉を紡いだ。

「あの、今まで騙しててごめんなさい!!」

それだけ言うと腰を90度曲げて頭を下げた。
要領を得ない軍人達は、何故エドワードが謝るのだろうとお互いに顔を見合わせた。

「あの、エドワード君?なにを謝って・・・?」

下げたままの頭を上げないエドワードに珍しく困惑したホークアイが尋ねる。
ノロノロと顔を上げたエドワードの表情は、先ほどとはまた別のものでどこか気弱で、儚げな空気を醸し出していた。
守ってあげたい。
いつもより強くそう思わせるなにかがあった。
まるで、、、

エドワードはチラリとロイのほうへ視線を向けた後、意を決して皆の目を見て、

「俺、女なんだ!」

キッパリと言い放った。
ロイ以外は、声も上がらないほど驚いた。
ただ呆然と今告白された言葉を頭の中で時間をかけて反芻し、染み渡らせている。

瞬きもせず、エドワードを凝視する。
信じられないような物を見る者もいれば、
眉を顰める者、
硬直する者、
おろおろする者、
息を吐き出しながら感心する者、

いろいろな反応を見せた。
それでも、エドワードを見る眼は根本的には変わらない。

その瞳に気付かぬエドワードは、軍人達が何も反応をしてくれないことに、胸がきゅっと苦しくなった。
その場所を生身の左手で掴み座りこんでしまった。
もう自分がこれ以上言う事はない。
弁解なんて仕様が無い。
諦めて、相手の言葉をじっと待つしか道は無い。
あとは、ここにいる軍人達の行動によるものだ。

だが、言葉を聞くのが怖い。

どんな言葉が飛び出てくるのか。

この人達には嫌われたくないのは確か。

この場を離れたい気持ちはあったが離れてはいけないし、なによりに力がはいらない。

告白して顔を青ざめさせ行き成り座り込んだエドワードを、慌てて周囲にいる軍人達は長椅子に座るように手を掛けた。

「そっか。大将は女の子なんだ」

一番初めに言葉を出したのは、いつもエドワードを弟のように可愛がっていたハボックだった。
飄々とした物言いだが驚いたものも含まれて、頭に手を置きくしゃくしゃと髪の毛をかき乱した。

「気付いてあげられなくてごめんなさい・・・」

心底悲しそうな顔をして謝って来るのはホークアイ。
同姓なのにどうして今まで気付いてあげることができなかったのか、そればかりを心の中で繰り返している。
兄弟のことを理解できる大人の一人でいるつもりでいたことが、ひどく恥ずかしく悔しく思う。

他の者も言葉を掛けようとするが、今は上官たちに任せて見守ることに徹した。
今余計なことを言ってしまえば、今のエドワードを見てしまえば心に傷を残してしまうかもしれない。
どんな言葉をかければいいのか細心の注意が必要になってくる。
立ち直れなくなるような言葉は言わないつもりだが、どの言葉がエドワードに必要か、どの言葉がエドワードを傷つけてしまうのか、わからなかったからだ。
エドワードが落ちつくまで待つつもりで黙って見守る。

空気が、崩れ、なんだか暖かいモノに、変わった。

軍人達は自分達を見ようとしない金髪の少年、いや、少女に暖かな瞳を向けた。

エドワードが女であれ、男であれ、自分達にはどっちでも、エドワード・エルリックという一人の人間なのだ。

エドワードという存在が好きなのだ。

性別なんて関係ない。

なんてカッコイイこと言ってるけど実際はすごく驚いたし、気持ちも複雑だった。

でもなんだかよく分からないが、ほっとしたような安心したような、あぁ、そうなんだ。ってあっさり受け止めることも出来た。

いつも何かに怯えていたエドワードを見てきたからなのか知らないが、

今までのように自分たちの傍にいてくれるだけで楽しいし、目の届く範囲にいるだけで安心できる。

今までのようにからかえることもできる。

性格が変わるわけではない。


ただそれだけだ。


確かに黙っていたのは不満だった。

言えない理由があるのはだいたい分かっているつもりだが、自分達がそんなに信頼できないのかと思ってしまった。

今まで、エドワードには特別扱いされてるし、信頼されてる、心を許されていると思っていたからなおさらショックがあった。

教えてくれれば守ってあげることも、助言すること、なんでもできただろう。

でも、これだけは言いたい。

どうして今まで気付いてあげられなかったのだろう・・・。

男の軍人達が少女が男装していることに気が付かないなんて、軍人として鈍っているし、男として男ではないものぐらい識別しろって感じだ。

いくらエドワードが男より男勝りな奴だって女の子にはかわりはないのだから。

気付いたとしても、今までと大差なく関わっていただろうけど、女の子というだけで、心づもりが違ってくる。

でも、エドワードという存在が変わるわけでもないだろう。

どっちでも好きになっただろう。

その人柄に惚れ込んで。

性別がどっちでも今までと対応は変えるつもりはないし、そんな態度を示す奴がいたらこの軍人達が黙ってはいないだろう。

軍人達は皆同じ想いだった。
今まで同じ時間を共有してきた仲だからこそ意思疎通が出来るのか、はたまた皆人柄がいいのか・・・。
結論はいつもと同じ、だ。
この子供に対してだけは何時も同じ結論に辿りついてしまうのだった。

それだけこの子供は、自分達の中に深く関わりこんでいる証拠だ。

「ホークアイ中尉が謝ることはないよ・・。俺が騙していたんだから」

ホークアイとハボックの声を聞いて顔を上げるエドワードの瞳には驚きの色が見える。

皆は怒ってはいないのだろうか?

怒る価値も無い話だったのか?

自分を覗きこむ軍人達は、笑っている。
驚きはまだあるが、自分を見つめている目は優しい。
懐かしい瞳の色。
ずっと求めていた瞳の色。
慈愛に満ちているように感じてしまうのは自分の価値観の違いだろうか。

これは自分の都合のいいように見せている光景なのか?

頭が本当の映像を拒否して勝手に作り上げた虚像の世界?

それほどまでにエドワードは混乱していたし、この場を失いたくなかった。
もうこれ以上親しい人を失いたくない。

自分の所為で起こした事態なのに、それを失いたくないなんて、なんて傲慢な。
自分で自分を呆れ果ててしまう。

人間とは身勝手でやっていることは意味不明。
扉の表では扉の裏とは違う行動。
いけない事だと分かっていても身体は反応。
精神は悲鳴を上げるが、扉の奥に隠してしまえばなんともない。
壁一枚作るだけで動にでも防げる世界。
こんな世界を望んだのに、どういうわけだろうな・・・。

エドワードは軍人達に対して騙していたので、いまいち素直になれないところがあった。
そりゃぁ、人の心の内を見ることが出来ない。
エドワードはまだ子供。
いくら頭がいいといっても人を感じること、人に対する実際の経験を積んでいない。

信じてくれない、怒ってしまうだろう。
簡単な図式がイコールで評されている。

でも、認めて欲しい。
優しくしてほしい。
どっちも本心から思っていることだけに、信じられないのだ。

「騙していたなんて・・・。ただ今まで言わなかっただけでしょ?」

「それを騙していると言うんだろ・・・?」

「でも、今私達に伝えてくれたじゃないの」

菩薩のように女神のように。
微笑を浮かべ、エドワードを胸に抱き寄せるホークアイ。
この職場唯一の女性。
同じ女の香りを身体いっぱいに感じ、涙腺が緩んでしまう。
抱きしめられた感触なんていつの間に忘れていたのだろう。

柔らかくていい匂いがする。

エドワードが苦悩していることに気付いたホークアイ。
自分達が信じてくれない、受け止められないのかもしれない。
しかも今まで騙していた。
隠していた。
怒られるのは当然のこと。
嫌われるのは当たり前。
こんな子供に情などもってもまた裏切られるのだろう。
そう思ってるのかもしれないと思っていた。

エドワードは今までに何度か思いつめた表情をして話しかけてきてくれたことがあった。
でも、話す前にやっぱりいいや、といってどこかへ行ってしまったり、仕事や突然の事件に邪魔をされることが常であって重要と察してあげずに先延ばしにしてきた。
このことを言うのにどれだけ勇気が必要だったかと思うと悲しくなってくる。
同じ女性なのに気付いてあげれば・・・、怒るよりもそんな言い知れぬ想いで胸がいっぱいだった。

「中尉・・?」

突然抱きしめてきたホークアイに疑問の声を出したが、ホークアイは離さなかった。
他の軍人達も息を出すと、エドワードの頭や肩などに手を置き撫でた。

まだまだ聞きたいことはたくさんあったが、今は何も聞かないでおこう。





「ところで、大佐」

エドワードをそっと離し、くるりと180度方向転換をしたホークアイは大佐を冷ややかな人を射殺せる瞳で見つめた。

「な、なにかな?中尉」

急に矛先がこっちに来て反射的にびくつくロイ。

「あなたはエドワード君の性別を知っていたのですか?」

「もちろん!!出会ってすぐに見抜いたさ!!」

誇らしげに言う自信満万にロイ。
エドワードはそんなに早くからばれていたのかと、悔しがるがあの時はまだ男装をしていなかったから仕方がなかったことだろう。
反面、大佐の洞察力に驚かされた。

初めからばれていたとは自分をよく見ていたということだ。
あんな状態の子供を。
伊達に大佐という名の地位についていないことに感心しつつも盛大に舌打ちをした。

分かっていたのならすぐに言ってくれればよかったのに・・・。
不満に思うエドワードだった。
でも、諭されたとしても自分の鋼のように硬い思いは変わらないので、注意されたとしても意味がなかったことに頭が回らないのだった。
まさに二つ名だ。

これからの旅はどうしようかな・・・・。と、遠くを見つめて思うエドワードだった。

「確かによく見つめてみれば、女の子に見えるな」

ハボックが急にエドワードに顔を近づけてしみじみと、顔を観察しそう言った。
たじたじとした態度のエドワードと目が合ったハボックはにっこり笑って、何時ものように頬を包み込み、つねった。
日常と変わらない動作を嬉しく思う。
いつもはうっとおしくてすぐに手を払いのけてしまうが、この時ばかりは痛いが大人しくつねられる。
可笑しそうににっこりと笑うエドワードの表情を見て、ハボックはあぁ可愛いな〜と弟ではなく新しい妹が出来たような感覚に浸っていた。
そしてそんな妹にちょっかいを出そうとしている焔を出す害虫から守ってあげなくては!!とホークアイ動揺深く心に刻み付けた。

「では大佐、女の子だと知っていてあんなに追い掛け回していたんですか!?」

「えっ;ちょっと事情があってだね・・;;」

じりじりと後ず去るロイ。
銃を取り出し追い詰めるホークアイ。
それを見て笑う軍人達。
エドワードも楽しげに笑う。

本当の性別を告白しても、皆の態度は変わらなかった。

勇気を出せばそれだけ相手は受け止めてくれるのだ。

殻に閉じこもって出て来れなかったのは自分だ。

変わることを恐れ、前へ進めなくて言えなかった。

後にすれば後になるほど言いづらい。

何時ものようにしてくれることを嬉しく思った。

いつもの光景がこんなに善いモノだったとは思わなかった。

失って初めて大事だということに気付くのだろう。

失う前に気付いてよかった。

怖がっていないでもっと早くに言ってしまえば良かった。

もっと皆を信じれば良かった。

拒絶されないで本当に良かった。



日常の出来事は大切。

だが、それを壊してしまうのは容易なこと。

守っていくのはとてつもない努力が必要なこと。

胸の奥の扉を開き、外の世界へ飛び出したい。

そして、飛び出した世界を感じたい。




**END**




なんだかえらい長いような;;しかも読みにくくてすいません;;エド子がうじうじうじうじ・・・・;;その気持ちも察してあげてください;;(どんな気持ちだよ)
大切な人に真実を隠して接していて、話すにも話せない心境。
話そうとしても相手の反応が気になりのびのびになってしまう・・・;;
大袈裟に書いたところもありますがね(@Q@)
分かってくださるところが皆さんにもあるかと思います!!

*2005.5.28