あぁ、バレテしまった。


彼は知っていたんだ。


彼の言葉を聞くのが怖い。


逃げないで。


言葉を聞いて。


そんなものは感情ではコントロールできない。





***君に伝えたい 後半***






エドワードは走っていた。

ひたすら走っていた。

前だけを向いて。

後ろは絶対に振り向かず。

ただひたすら走っていた。

後ろから追いかけてくる人から逃げているように・・・。



「エドワード!!」



・・・・・。

後ろから猛烈の勢いで追いかけて来る上司に、エドワードは泣きそうになりながら腕を大きく振って全力疾走する。

どうして追いかけて来るの!?

てゆうか、どうしてそんなに怖い顔して追っかけて来るの!!?

おもわず、もとの喋り方に戻ってしまった。

廊下は騒然としていた。
なにせ鋼の錬術師のエドワード・エルリックと、東方指令部の最高責任者のロイ・マスタングが追い掛けっこをしているからだ。
片方は泣いていて、もう片方は威厳のない怒っている顔をして。

大方ヤンチャ坊主の鋼の錬金術師が焔の大佐を怒らせて、叱られるのが怖くて逃げ回っているのだろうと判断された。
子供のやることにいちいち怒っている大佐も大佐だな〜と微笑ましく思うが、駆けっこはそんなものではなかった。

風のように失踪するエドワードが起こす風に髪を乱され、書類を廊下にぶちまけてしまい、その後から怒涛のごとく追っている司令官に重要書類を踏みつけられ、悲鳴を上げている軍人が多々見受けられる。
廊下にいた者は人災に関わらないために隅に寄ったり、安全な場所まで逃げている。
二人の通った後は怒るに怒れない軍人たちが途方に暮れていた。

そんなことは露知らずのエドワードは、廊下を走りながらどうにか外に脱出できる道を探していた。
キョロキョロ首をめぐらすが、それらしい出口はなにも見つけることができなかった。
窓や扉しかない。
司令室を出て適当に走りまくったから、ここがどこだかわからない。
階段も見つけることもできない。
思わず男らしい舌打ちをしてしまう。

軍部内は敵に進入されても良いように迷路のように道が張り巡らせているらしく、無駄に広く、長く、入り組んでいる。
はじめて来た人は絶対に迷ってしまって、自分がどこにいるのかも分からなくなる。
だから、時々しか訪ねてこないエドワードは道に迷っているのはしょうがないことだった。
エドワードは自分に必要な道だけしか覚えていていないから。
入り口から司令室と大佐の執務室。それから、トイレ(ちなみに男子トイレ)医務室、情報部など、それくらいしか覚えていていない。
覚えようと思えはいくらでも覚えられるのだが、必要の無い知識を覚えたところで役に立たないのだから、無駄な努力はするものではないと、端から覚える気ゼロだった昔の自分に覚えとけばよかったのに!!と走りながら今更のように憤慨しているのだった。

とにかく、長い長い。
これだけ走り回っているというのに、行き止まりが無い。
果てが見えないようだ。

随分全力疾走したから、息が切れ、脇腹も痛くなってきて走るスペースが落ちる。

「待ちなさい!!」

ロイはその間エドワードとの距離を詰めていた。
ロイの方が足が長くデスクワークのくせにさすが腐っても軍人か体力も有り余っているのと、軍部内の道にも詳しいからあっさりと追いついた。

「げっ!!」

少し後ろを振り向くと、ロイがエドワードに向かって手を伸ばしていた。
もう少しで腕を掴まれそうになったが、捕まえられたら終わりだ!と右腕で強く払いのけた。

「っ!こら!私の話を聞きなさい!!」

機械鎧で払われた手が痛かったのか、手を押さえながらすこし距離が離れていく。

その間に、エドワードは近くの窓に向かって駆け寄った。
駆け寄りながら手の平を合わせて、窓の枠に手をかけた。

その瞬間、錬成反応が起こり、凄まじい光が廊下を支配した。

ロイはおもわず立ち止まり手で目をかばってしまったがため、エドワードに対する反応が遅れてしまった。

エドワードは窓の枠の下のコンクリートから、滑り台を練成した。
滑り台は中庭に面した一階の廊下の窓から5メートルぐらい離れた花壇の手前まで続いている。

窓から身体を投げ出したエドワードを見て、ロイは心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
そんなに私に追いかけられるのが嫌なのか!?と、手を伸ばしたまま動けないでいた。

二階からでは急過ぎる滑り台からエドワードは左足に力を入れ、右腕で淵を掴んで立ったままバランスを取りながら滑り降りた。
滑り降りながら、また練成をした。
ロイが追っかけて来れないように、自分が通った後の滑り台を練成して元に戻していく。

ようやっと動いたロイは追い駆けようとはせず、練成をして変形させた窓からまた元に戻った窓枠を掴み、悔しそうにエドワードの姿を見つめていた。
エドワードは無事に地面に降り立ち、ロイが追っかけてこないことを確認しながらまた逃げた。



逃げていてはいけない事ぐらいエドワードは分かっている。
このままでは、なにも解決はしないのだから。
しっかりと向き合って話さなければならない。
何故このような事をして騙していたのか、どうゆう理由で黙っていたのかを伝えなければならない。

自分の気持ちに整理をつけなくてはならない・・・。

でも、追いかけられると逃げてしまうのだ。
怒られるのが怖いのだ。

少しの信頼を失うのが怖いのだ。

このまま捨てられてしまったらどうしよう・・・。


自分が落ちついたら、司令室に赴き全てを伝えようとエドワードは考えていた。


エドワードが逃げた先は、裏庭の木の上だった。
そこはお気に入りの場所。
いつも指令部にきて暇を持て余したら、涼しい静かな木の上に来ている特等席だ。
ここには滅多に誰もこないので、結構な穴場だった。
が、司令部内ではココがエドワードのお気に入りの場所だと知っている者が必要以外は近づくなときつく言い含めていることをエドワードは知らない。
そこに駆けこみ、乱れた息を整えるように深呼吸をした。

落ちついてくると、性別がばれる前にロイからなにか言われたような気がしたような・・・?と、思い懸命に思い出そうと賢く鋭い頭の中をめぐらす。
自然に顔が厳しくなる。

性別のことで頭がいっぱいだったけど、その前に重大なことを発言されたような・・・。

なんだっけ?

・・・・・・・・・・。

チュンチュンと平和そのものの鳥のさえずりが耳に響く、心地よく思わずいつものごとく寝てしまう空間だが今はそうもいかない。


確か資料を読んでる時に横からうざいちょっかいをかけられて、集中力を乱されたんだ。

で、恩着せがましいことを言われて抱きしめられたんだっけ・・・。

ん?

抱きしめられた!!?

何であんな奴に抱きしめられなくちゃならないんだ!!

何考えてんだか・・・。

こんな子供を抱きしめるなんて、興味本位かなんかだろうか・・・。

くそっ・・・。

苛々する。

でも、

でも、大きくて広くて、温かかった・・・。

あの腕の中でずっとずっと安心していたい。

誰かにすがりたい気持ちが溢れてくる。

それが辛くて、頭突きをして逃げたんだっけ。

結構痛がってたな・・・。

悪いコトしたかな?

でも、あの漆黒な瞳が俺を捕らえて離れない。

近づいてきたかと思えば、



あれ・・・?



なんだか、見たことも無いような真剣な顔で、おかしなことを・・・。


思い出したくないけど、思い出したい記憶。

覚えているけど、意図的に封じ込めている記憶。

開放するのが怖いけど、扉を開けたい。


・・・・・・・・・。



あっ・・・。

カァ・・・・・。



エドワードの顔が熟れたりんごのように赤くなり、その頬を両手で挟み、え?え!?と自問自答している。

ロイから告白された記憶を思い出しだしてしまった。



「好きだ」



ぎゃぁぁぁーーー!!?

今頃大絶叫モノである。

そう、確かに言われたのだ。
その場の状況をリアルに思い出してさらに赤くなるエドワード。
いつもは食えない笑みとからかいを含んだ空気を纏わせていたのとは違い、言われた時のロイの男らしい表情、今まで見たことのない大人な雰囲気を漂わせていた。

でもそんなことよりその後の正体がバレタことの方が自分にとっては重大だったから、ロイから告白されたことが記憶に残っていなかったのだ。
哀れロイ・・・。

だから大佐は何故必死になって、自分を追いかけてきたことが分かったような気がした。
答えを聞くため。

はたしてそうだろうか。

ハタと、冷静な感情がよみがえりロイの性格のことを分析しだす。


本当に大佐は俺のことが好きなのだろうか?

大佐みたいな完成された男の人がこんな子供の男女に好意を持っているとは考えにくい。

ちょっとした勘違いな感情が好きだと思い違いをしているだけだなんじゃないのか?

いつものように仕事が面倒でたまたま訪れた俺を使って暇つぶしのために、好きだといって俺の反応を楽しんで追っかけてきているだけじゃないだろうか?

だったらなんて性格の悪い大人だろうか。

そう考えるとムカムカしてくる。

暇な大人に付き合って要らぬ気苦労を使ってしまった。


はぁ、と重たいため息をつき頬杖を付いて、執務室と追っかけてくるロイの姿を思い出す。

真剣な表情、とてもからかっているとは思えないほどの演技ぶり。

逃げる俺に必死に追いかけ捕まえようとなりふり構わず手を伸ばす東方司令部NO.2の大佐。

子供の俺から見ても頑張っている風に見えた。

そんなこと考えちゃいけないのに。

こんな感情なんて要らないのに。

分からない。

大佐の思いが、考えが分からない。

本心なのか、嘘の塊なのか。

俺には分からない。

心がチクチクする。


どうしよう・・・。

さらに頭を悩ませることが増えてしまった。

しかも同時に・・・。



しばらくそこでボーとしていると、下から今一番聞きたくない声が聞こえてきた。



「降りて来なさい」



ビックリして足元を覗きこむと、そこには今まで自分を走り回って探していたのか、息を乱したロイがいた。

ロイを見た瞬間おさまった顔の赤みがまた広がっていった。

そんな顔を見たロイは?走りつかれたのだろうかと、さして疑問に思わなかった。

気配を感じ取れなかった事を悔しく思いながらも、なんとか逃げ出そうと頭の中で考えをめぐらす。
もう逃げることが意地になっているのかもしれない・・・。

ロイの顔は憮然としていた。
肩で息をし口をきつく引き結び眉に皺を作ってエドワードを怒ったように、だが寂しそうに見上げているがエドワードにその表情は伝わらない。

何故エドワードがここまで自分から逃げるのか見当もつかない。

いや、見当は付いているが認めたくないだけだ。

てかどっちの事柄について逃げ出したのかが分からない。

どっちにしても自分は何か嫌われるようなことを言ったのだろうか?

事実と、ただ自分の想いを伝えただけ・・・。

本当の性別のことはエドワードに何の問題もないことを書類を見て知っている。

ただ周囲の人間が勘違いしてエドワードのことを男だと勝手に認識をしていただけで、罰せられる要因がないし、もしそのようなことがあるとしたら自分は全力でエドワードのことを守るつもりだ。

それが重みなら、それが辛い想いなら、好きだといった言葉を撤回するつもりだ。

だが、撤回はするが、諦めるわけではない。

再び彼女らが自分の肉体を手に入れたその時に、また改めて自分の想いを伝えるつもりだ。
いや、伝えるのだ。
何年かかってもいい。
自分がこれほどまでに彼女を、エドワードを愛していることを認めさせる。
理解してもらうため。

これが、エドワードを探し出すまでにロイが考えた言葉だった。

本当は今伝えるつもりなど毛頭なかったのに、雰囲気に流されて伝えてしまった。
彼女のことを想えば伝えることなどしなければよかったのに・・・。

こんな気持ち、旅をしている彼女にとっては迷惑以外なんでもないというのに、大人のくせに何て様だろうかと項垂れたくなる。

だが、彼女が自分のことを嫌いではないといったのならば、指令部に戻ってきた時にいつでも好きだよ。と伝えたい。

そんな都合のいいことを考えながら、

「降りて、私の話を聞いてくれないか?」

今まで見たこともない微笑みで、今にも逃げ出そうとしているエドワードに向かって言った。


「あっ」


「エドワード!!」


ロイの笑みで動きを止めて見入ってしまったエドワードは、逃げ出そうとしていたため不自然なバランスだったため足を滑らした。
つるっと、足が木の枝から離れた。
エドワードはなんとか近くの枝につかまろうと手を伸ばすが届かず、前方にロイの方向へ向かってまっ逆さまに落ちていく。

やばい!!と思い、受身態勢を取ろうとするが、バランス悪く落ちたため思うように空中で身体を回転させることができなかった。
身体に来る衝撃に備え、息を潜め受身の態勢ととる。

どさっ。

「ふぅ〜」

「いっ、痛・・・・くない?」

木の上3メートルから落ちたエドワードの身体は、当然ながらロイが受けとめていた。
小さなく細いエドワードの身体を、ロイの大きく鍛え抜かれた身体で抱きしめていた。
ロイはエドワードを自分の脚の間に下ろし、目を瞑り息をはきながらエドワードをぎゅっと抱きしめた。

抱きしめられたエドワードは抵抗できずに呆然とロイの胸へ頬を落とすだけ。

ロイの早い心臓の音が耳元でドクドク聞こえ、少し震える身体を直に感じるてしまった。

エドワードが落ちてくる寸前、ロイはエドワードに向かって両腕を突き出し、自らも衝撃を和らげるために後ろへ倒れながら、エドワードの背中に手を回したのだ。
ちょっとしかロイの胸にぶつかった衝撃しかエドワードにはこなかった。
その甲斐あってエドワードには傷一つ付いていない。
ロイはエドワードに傷がないことを座りながら手をあちこち移動させて触りながら、確認した。
怪我の確認をしている間、エドワードは静かになっていた。

ロイは安堵の溜め息を吐きながら、エドワードの頬を撫でた。

「よかった。怪我がなくて・・・」

ロイは咄嗟に受けとめたので上手くいかないかもしれないと思っていたので、一安心した。
愛しい者を見るような瞳で見つめられたエドワードは耐え切れず、下を向いた。

あの言葉は嘘なのだろう!

そんな瞳で俺を見ないでくれ。

苦しい、辛い!

やめてくれ・・・。


「・・・・ごめんなさい」


謝罪の言葉が口から漏れた。
それは落ちてきたことに対してなのか、今まで逃げ回ってきたことに対してなのかはロイにもエドワード本人にもわからなかった。

一向に顔をあげようとしないエドワードを覗き込んだら、なんと泣いていたのだ。

「エ、エドワード!?」

いきなり腕の中で泣き出したエドワードにロイは戸惑いながらも、子供にやるように頭や背中をさすってやった。

「ごめんなさい。ごめんなさい・・」

何に対して謝罪しているのか分からない。

逃げたことか、騙していたことか、信じられないことか。

落ちてくる俺を自分が怪我をするのもかえりみないで受け止めてくれる人、こんなにも怪我をしていないか心配してくれる。

それは何故?

そんなの少し考えれば分かること。

言葉でも言われたこと。

行動で表してもらったこと。

あんな瞳をする人が嘘をつくはずがないこと。

どうして自分は信じられなかったのだろか。

必死に謝るエドワード。
ロイは何が何だかわからないまま、エドワードが泣きやむのを静かに待っていた。

「どうしたんだい?」

だいたい泣きやんだ頃に、攻める風でもなく心地よいエドワードが好きなテノールの声で、泣いた理由を尋ねた。
エドワードは涙をうべたままロイを仰いだ。
頬が涙でベショベショで目元が赤くはれていた。
そんなエドワードの表情すらも可愛いと思ってしまうロイ。
末期症状だろう。

「・・・・。今まで騙しててごめんなさい。そして、逃げててごめんなさい・・・」

それだけ言うとまたふにゃ、とロイの胸に顔を摺り寄せながら泣き出した。
そのエドワードの行動に驚いたが、あの誇り高いエドワードがこんなにも弱く自分に擦り寄ってくるのが嬉しくて堪らず、思いっきり華奢な身体を抱きしめた。

折れてしまいそうなほどに。

そして、エドワードの香り、体・髪の柔らかさ、エドワードの全てを奪い取りたい衝動に駆られた。

エドワードはロイのことを騙していたのに、こんなにも心配してくれることがとても嬉しかった。
騙していて、逃げ回ったにもかかわらず、優しくしてくれることが嬉しかった。

これから、話そう。

自分のことを嘘を言わないで。

大佐が分かってくれるまで。





誰か私を見つけて。



本当の私を見つけて。



偽りの姿じゃない私を見つけて。





そして、見つめて。私を。



私をみとめて。



私を抱きしめて。



私を好きになって。



それから・・・・・。





それから、私を愛して・・・。





**END**



文法が変なところがありますが気にしないでください;;
なんだか納得できない終わり方かももしれませんが管理人の力不足です;;(だったら頑張れよ)
リクエスト部屋のところにこの後日話がありますのでそちらのほうもよろしくお願いします。

*2005.5.21