誰か私を見つけて。


本当の私を見つけて。


偽りの姿じゃない私を見つけて。



そして、見つめて。私を。


私をみとめて。


私を抱きしめて。


私を好きになって。


それから・・・・・。







***君に伝えたい 前半***






「鋼の」


「鋼の・・・」


「・・・・エドワード」


「・・・・・」


「好きだよ」


ふう・・・。
ロイは息を吐いた。
何回呼んでも自分の想い人はこっちを見ない。
ロイが渡した文献を、一文字も見落とさないように読んでいる。

読んでもらうために渡したのだが、これでは意味がない。

ロイは大佐専用の席を立ち、長椅子の隅っこに座っているエドワードの横に座った。
ぎしっ、と鈍い響きを立てながら、ロイの身体が沈んでいく。
体重の差で、少しエドワードの身体がロイの方へ傾いたが、それでもエドワードは気付かないで文字の羅列に沿ってすばやく大きな黄金の瞳が行き来する。

白いキメの細かい肌に、誘っているようなピンクの唇。
健康そうな薔薇色の頬。
太陽の光を受けてきらめく黄金の髪。
キラキラしていて、まぶしいくらいだ。
いつもは横に出している前髪を、文献を読むにあたって邪魔なのか、耳にかけている。
そのためか、耳にかかっている横からいつもは見えない綺麗な顔がしっかりと見えている。
ロイは目を細めながら、エドワードの髪の毛を手にとって近くで眺めた。

まだ気がつかない。

こんなの顔が近づいているというのに・・・。お互いの息がかかりそうなくらい近い。
だが、こんなことはいつものことだ。

ここへ来ては、口一番に新しい情報、文献、資料・・・、賢者の石に関することばかり聞いてくる。
彼女らがもとに戻るためには必要不可欠な情報だが、提供している身として少しばかり寂しい。
いや、彼女らのために文献を揃えるのは嫌ではない。
むしろ喜ぶべきことだと思う。
それだけ彼女に信頼をされている、と取れるだろう。

だが、興味が文献ばかりで、渡している私には見向きもしてくれない・・・。
目的一直線の彼女は私の気持ちなどてんで気付いていないだろう。
もとに戻るために、使えるものは使う。
それが彼女の方針だ。
私も使ってくれて大いに結構だが、何故かあまり嬉しくない。
嫉妬しているのか・・・?文献に。
彼女は文献ばかりを見ている。
文献を持って、彼女に渡している私はおまけに過ぎないだろうな・・。

この想いどうしたらいいだろう。

「・・・。大佐。さっきからなに?」

エドワードが眉を寄せ、うるさそうに自分を見たことがロイは少なからず驚いた。
エドワードは気付いていたらしい。
だったら何故今まで反応をしなかったのだろうか・・・?

「いや・・・、君が文献ばかり見ているので、ついちょっかいをかけたくなって・・・」

ロイはついポロリと本音を出してしまった。
しまった。と思った時はもう遅く、エドワードは怒りの表情を浮かべていた。
怒りの表情と同時に、嫌悪も見受けられ一瞬固まるロイ。
ロイが持っていた髪を引き離し、距離を取ったがエドワードは隅っこに座っていて、広いスペースにロイが座りこんだのだからたいして距離が取れなかった。

「なんで、邪魔するんだよ!しかも、髪の毛触るなよ!」

猫の子が全身の毛を逆立てているかのような威嚇をした。
結構大きく分厚い文献を自分の前に持ってきて、ロイから自分の身体を守っているよに見える。

「文献ばかり見てないで、私とお茶をしようじゃないか」

文献から意識の離れ私に意識が向いたのだから、この際お茶にでも誘っとこうと思い声をかけた。
エドワードはますます顔を歪めた。
綺麗な顔がどんどん険悪な顔つきになっていくのをロイは、残念そうに眺める。
にこにこしていれば美しい顔なのに・・・。
まぁ、ニコニコしている鋼の錬金術師もどうかと思うが・・・。
こんな場面でも不謹慎なことを考えるロイであった。

「なに言ってんだよ!そんな時間は俺にはねぇ」

ふんっ、と鼻を鳴らしながら席を立とうとするエドワードの左手首を慌てて掴み引き止めた。
この場を離れ様とも、掴まれて動かなくなった左腕を忌々しそうに見ながら、その瞳をロイに向けた。

「・・・。離せよ」

少し悲しみ似た思いが瞳に現れたが、それは一瞬だけだった。
ロイは見間違いか?と思ったが、今はそんなことはどうでもいい。
エドワードがこの場方立ち去ることをどうにか避けなければ・・・。と頭をフル回転させる。

はぁ、とあらかさまに大きく溜め息を吐くロイ。
まるでエドワードに見せ付けるかのように・・。

「な、なんだよ・・」

ちょっと困ったような表情になるエドワード。

「君はその文献は誰が取り寄せてもらったと思っているんだ?ん?」

ぐいっ。
にっこり顔でエドワードの身体を強い力で自分の方へ倒れさせた。
小さな悲鳴が聞こえる。
身体は横を向いて、顔だけ自分の方を向いていたエドワードはバランスを崩し、倒れないように咄嗟に自分の胸の軍服を掴んだことが嬉しいしなんとも愛らしいことか。
すっぽりと腕の中に収まるエドワード。
腕の中に入ってきたエドワードを、優しく抱きしめ髪の毛を撫でた。
ロイの表情はいつもの胡散臭い笑みではなく、柔らかい、愛しいものを見つめるような瞳でエドワードを見つめている。
だが、そんなロイの表情は腕の中にいるエドワードからは見えず、何事かとエドワードはロイの腕の中で暴れる。
精一杯暴れる。
離れようと腕を突っぱねるも、全然押し返せない。

大人の男の軍人の力にはかない。

たとえ右腕が機械鎧で破壊力や忍耐性についてはいうことはないが、引くことや押すことに関しては少し力が強いだけの女の子と同じだ。
所詮肩が生身だから、強いことはできない。

腕から逃れることを諦め、エドワードはロイを上目遣いで睨みあげた。
暴れたせいで呼吸が乱れ、頬も赤くなっている。
なんとも男の理性を刺激する顔つきだ。
エドワードにはそんな気はまったくないとは思うが、無意識にやっているのが恐ろしいところである。
ロイは少しばかりグラっと理性が傾きかけたが、なんとか思いとどまり、ん?と、さっきの答えを促すように、にこやかにエドワードの瞳を見つめる。
エドワードはますます赤くなり、ロイの顔を直視できなくなり俯いた。

と思ったら、金髪が視界一面に飛びこんできたかと思ったら、顎に鈍い痛みが響いた。

「ぐっ・・・;;」

どうやらエドワードがジャンプをして、ロイの顎に自分の頭をぶつけさせたのだろう。
押して駄目なら、飛んでみろだ・・・。

痛みでうめいているロイの腕の力が少し緩んで、そこからすばやく逃げ出すエドワード。
ある程度ロイから距離を取り、ロイの様子を伺いながら息を整えている。

ロイはロイで顎がそうとう痛かったのか、右手で顎を押さえて痛みに耐えている顔をしている。

「な、な、・・・なにするんだよ!!」

エドワードは胸元をきつく握り、動揺した声を隠そうともしないで、怒りに震える声でロイに言った。
それはこっちのセリフだよ・・・。とロイは、そんなエドワードを痛みに耐えながら見て、

「上官をないがしろにするんじゃないよ・・・」

苦笑いを浮かべて、エドワードに近づこうとした。

エドワードは少しずつ近づいてくるロイに、じりじり後ずさった。

「なに言ってんだよ!てか、こっちにくるな!!変質者!!」

「へ、変質者!!?」

「そうだ!!行き成り抱きつきやがって、最悪だ!!この変態!!」

ロイはエドワードの言葉に口元を盛大に引きつらせ、辛辣な言葉に耐えている。
エドワードがそのように思っていたなんて涙が出てきそうだった。

それでもなんとか耐え抜き、止まっていた歩みを進めた。


「つれないねぇ・・・。こんなにも君を想っているのに・・」


・・・・・・・・・。


「はぁ!????」


この男は何を言っているのか・・・。

エドワードの思考は停止した。

そんなエドワードの肩に手を置きながら、

「君が好きだと言っているんだ」

ずいっと、顔を近づけた。

お互いの瞳の中に自分の姿が見える。

エドワードは驚いた表情をしていて、ロイはさっきまでのおちゃらけた雰囲気ではなく、普段はみられない真剣な表情をしている。

ロイはもうこの場で好きだと言ってしまった。
本当はまだ言わないつもりだった・・・。
少なくともエドワード達がもとの身体を取り戻してから、大人になってから言うつもりだった。
彼女の足枷にはなりたくないから。
彼女には目的のことだけを考えて突き進んでいけばいい。
そう思っている。

でも彼女は、私が告白したところで見向きもしないのかもしれない。
今はそんなことを考えている暇はないというだろう。
そんなことを言われるのを恐れていたのかもしれない。

この気持ちを否定されるのを。

身体がもとに戻ったら、彼女はきっと国家錬金術師を辞めるだろう。
私の想いを告げて断られても、もう二度と会うことはないとだろう。
気まずい想いはしなくてすむ。

もとに戻ったら、というのはいわば単純な逃げ道だ。
自分の気持ちから逃げているだけなのかもしれない。

自分でも情けないと思う・・・。

こんなに女々しいのかと疑うくらいだ。
14歳も年の離れた、男装をした少女を好きになるなんて・・・。

そう感じ始めた時は嘘だと、何かの間違いだと必死に否定しようとした。

だが、否定すればするほど心が痛みを訴え、エドワードのことを考える時間が増えた。

でも、この気持ちに嘘偽りはない。

そう感じた時、心がふっと軽くなった。

この想いを認めたことによってまるで重たいものが取り払われたかのように・・・。

それからエドワードのことを考えると心が嬉しくなった。と、同時に悲しくもなった。

だが、成り行きでこんなことになってしまったから、もう後に引けないと思った。
ここまで言ってしまったのだから、この想い全て伝えてしまえ・・・と、ロイは決意した。

「好きだ」

ロイはしっかりとエドワードの瞳を覗き込みながら、言葉を伝えた。
エドワードは、信じられないようなものを見るような、だけどどこか怯えた表情を出していた。
そのエドワードの怯えた表情を見ながら、ロイはムラムラしてきてしまった・・・。
密着しているから余計に、エドワードを感じてしまう。
エドワードの体温、香り、身体の柔らかさ・・・どれをとっても、自分を酔わせる麻薬のように感じる。
もっとくっつこうと、ロイはエドワードの腰に手を添えて自分の方へ引き寄せた。
下半身に熱が集まり始める。

ロイのそんな心情を知らず、今度は大人しく抱き寄せられるエドワード。
抵抗しないのにちょっぴり安心したロイ。
抱き寄せるが、決してエドワードの瞳から視線はそらさない。
エドワードもそらさない。
いや、そらせないでいる。

エドワードの眉毛は困ったように眉間に皺を作り、眉尻はハの字のように下がっている。
瞳が乾いてしまうのではないかと思うくらい、瞬きはしていない。
口は薄く開いて、白い小さな歯が見え隠れしていた。
その思わず自分のもので塞いでしまいたくなる唇から発せられた第一の言葉は、

「な・にいってんだよ・・・。俺は、男だぜ・・?」

・・・・・。

ロイが思っていた答えとは違ったものが返ってきた。

あぁ、そうか。

だが、そうゆう答えが返ってくるのが当たり前であろう。
エドワード自身はまだロイには本当の性別はばれていないと思っている。
普通の少年で、ロイの手駒の一つだ。
ただの上官と部下の関係だと思っている。

でも、ロイはエドワードが女ということを始めから知っている。

エドワードを見た瞬感から、この子は女の子だ。と証拠もないのに確信していた。
何故そんなことを確信していたのか自分でもわからないが、そう本能は告げていた。
お友達の第六感が教えてくれた。

エドワードの動きをよく観察していると、彼女が女の子だということがはっきり分かってくる。
行動のはしばしは細かく、女性でなければ気付かないことを気付いたり、子供の男にしても柔らかすぎる身体。
ときどき笑う笑顔はどう見ても女性の物でしかなかった。
彼女が何か理由があって男装をしているのだから、理由は無理に聞かないで自ら言い出すのを待っていた。
だんだんと身体が丸くなってくるので、どうしてもわかってしまう日がもう少ししたらくるだろう。

たとえエドワードが女性でなくとも、男性だったとしても好きになっただろう。


「君は女の子だろう」


そう言うとエドワードは驚愕に瞳を見開いた。
口がアワアワ細かく震え緊張のためか身体が強張って、支えがなければ今にも崩れ落ちそうだ。
そんな小さな身体の肩と腰を強く握る。

「な、んで、知って・・・?」

驚きのあまり上手く言葉が喋れないようだ。

「隠していたようだけど、始めからわかっていたよ」

始めからばれていたことを知ったエドワードは、いきなりロイを思いっきり突き飛ばし扉から出ていってしまった。
エドワードが腕の中で大人しくしていたから、油断したロイはエドワードの身体を離してしまった。
扉から出ていってしまったエドワードの後を慌てて追いかけた。



どうしよう。

どうしよう・・・。

ばれていたなんて・・・。

大佐に女だってばれてたなんて・・・。

どうしよう・・・・。

エドワードは混乱していた。
ロイに告白されたことよりも、性別を偽っていたことがばれたほうが重大だった。

女だと偽って軍部に入り、国家錬金術師の資格を得た。

でも、書類にはしっかりと女だと記入はしていた。
今は良いが大きくなったら隠しきれる自信が無いし、隠しようがないからだ。
女性の身体はいずれ年を重ねるに連れて、身体に丸みを帯びてくるのは嫌でも分かっている。
エドワードは今は15歳だが、だんだんと女性らしくなってきている。
筋肉はつきにくく、胸も大きくなり、肉付きが良くなってきた。
そんな身体を憎く思い、サラシでキツク胸を押しつぶすことが日常になってきていた。

それまでに賢者の石を探しだし元に戻る自信はあった。
子供が楽天的に考えることだ。


信じていればもとに戻れると・・・。

信念を持ち、自分の道をひたすら走り続ければいいのだと・・・。


そして、女性らしくなる前に軍部から姿を消すつもりだった。

だが捜索は難航し、思ったよりも長くなってしまった。

焦れば焦るほど賢者の石が遠ざかっている気がしてならない。

自分の焦りが元に戻るのを遅らせているかのようだ・・・。

これでは、いつかばれてしまう・・・。

でも書類には女性だということになっているから、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせて今はそれで守っている。
自分が好んでこの格好をしているだけなのに、周囲はエドワードのことを男だと思っている。
それはそれで、ちょっぴりむかついたけど、勘違いしてくれていた方がありがたかった。
もともとそのつもりでこんな格好をしている。
女だと軍部ではイロイロやりずらい点がいくつもある。
旅でも女より男の方がなにかと便利だ。

周囲の人にばれて、男じゃない、女じゃないか!と、いわれても、ちゃんと書類には女だと記入をした。
勝手に間違えたのはそっちの方じゃないか。
情報部の失態だろう。

そう言うつもりだった。
これなら、自分にはたいしたお咎めなしだろうから。

それでも、ここにいる心優しい数人の軍部の人達には自分の口から真実を言っておきたかった。
いつも旅から帰ってくる自分たちを温かく迎えてくれる人たちに。

今まで騙しててごめんなさい、と。

そして、こんな俺だけどこれからもよろしくお願いします。

そう言いたかった。

でもそう言う前に、大佐にはもう女だということが分かっていたらしい・・・。
初めっからばれていた。

今まで大佐はどんな風に俺を見ていたのだろう。

男の格好をしていて、おかしな子供だと思っていたのだろうか?

何故自分には話してくれないのだと憤ったのだろうか?

騙していて、大佐に本当のことを言わなかったから、嫌われただろうか?

それに初めっからといっても、いつから気付いていたんだろう・・・。
リゼンブールに勧誘しに来たときなのだろうか?
あの時はなにも男の格好なんてしていなかったし・・・。
だったら中尉も気づいていいだろう。
・・・・それは昔から自分は男らしかったということだろうか・・・。
それとも、自分が中央に出て来て話した時なのだろうか?

まぁ、いずれにせよもう遅い。
どうして大佐は今まで言わなかったのだろう。
まぁ言ったところで何もあるわけではないのだが・・・。
むしろ大佐にとっては厄介ごとになるのは必須事項だ。

なんにしろ、自分は故意に黙っていたのだ。

自分のために。 周囲の人のことは、なにも考えていないで・・・。

無償で心配してくれているというのに。

どうしよう・・・。

嫌われたくない・・・。

大佐のこと好きなのに・・・。

エドワードは今までにないぐらいに混乱していた。
何故こんなに混乱しているのか自分でもわからないくらいで不思議だった。

母親の練成に失敗して、その代価に左足をもっていかれ弟の身体全身も持っていかれた。
そして、弟の魂を引きとめるために右腕を失った。
そんなことになっても、あまり混乱はしなかったと思う。

頭のどこかで、この練成は失敗するかもしれない・・・。そう思っていたかもしれない。
思っていたけど、どうしてもまた母親の微笑む姿が見たかった。
だから、やめなかった。
いまさら引けなかった。
自分の我を突き通すために・・・。

失敗した時、無が夢中で魂の練成をしたから混乱する暇もなかったのだろうか・・・?

エドワードはすでに泣きそうだった。
実際瞳に涙を浮かべて今にも零れそうだった。

いいようのない思いが胸の中を締めていた。


執務室の部屋から直接司令部の部屋につながる扉に、ロイを押しのけ全速力で向かった。
逃げたところで何も解決などしないことは重々承知だったが、逃げずにいられなかった・・・。

後ろから大佐の引きとめる声が、聞こえたがそんなもの聞いてられない・・・。
扉を開き後ろ手で扉を閉めた。
当たり前だが逃げた俺を大佐が追いかけてくるかもしれない。
鍵なんてついていないから、すぐにその場から離れようと勢い込んで前を向いた。

が、司令部の主な軍人達の視線があった。
ホークアイ中尉は机に向かっていたので、書類を仕上げていたらしい。
ハボック少尉は仕事疲れか、ぼーとしており、窓に寄りかかり煙草を吹かしていた。
ブレタ少尉は、ファルマン准尉と将棋という名の試合をしていた。
フュリ―曹長は、コーヒーを配ろうと皆のカップを持っていた。

・・・みんな仕事中じゃないのか?と密かな疑問を頭の隅っこで考えたエドワードだった。

みんなエドワードが凄い勢いで、執務室から出てきたので驚いてエドワードに視線を向けたのだ。
しかも、眼にはうっすらと涙を浮かべている。
軍人達は執務室から出てきたので、大佐になにか言われたのだろうか!?とすぐさま立ちあがり、可愛いエドワードに近づいた。
そう、エドワードはたとえ男と思われていても、ここのアイドルなのだ。

エドワードは一番信頼のおける、中尉のもとに急いで近寄ろうと思い駆け出したが、

「エドワード!!」

扉からエドワード同様、扉を蹴破らんかの勢いでロイが飛び出してきた。
思いのほか早く大佐がやって来たので、まだ扉の付近にいたエドワードはあわあわ慌てて、中尉の後ろに隠れた。
中尉の後ろで怯えて泣きそうになりながら震えているエドワードを庇うようになにかを察してか、ハボック・ブレタ・ファルマンが、前に立ちはだかった。
フュリ―はどうしようとおろおろしていた。

「大佐。どうしたんですか?」

まず、ホークアイがいつものポーカーフェイスを崩し、困った顔をしながら何故か焦っているロイに尋ねた。
てっきりエドワードが泣いているから、大佐は怒っているのかと思っていたが、困り果てた顔でそこに立っていた。

「どうしたもこうしたもない。・・・エドワード、こっちに来なさい」

部下にそっけなく言いはなち、エドワードの姿を見ながら言った。
どうやら上官はエドワードの姿しか映っていないようだ。
尋ねても答えをくれない上司に、ホークアイは溜め息を吐いたが、ロイは気付かない。
普段は銘で呼んでいたが、今は本当の名前でエドワードを呼んでいる。
執務室でなにがあったのか・・?ますます気になるところだ。
優しく呼びかけてもエドワードは中尉の後ろから出てこようとしない。
それどころか、ますます中尉にくっついていった。
頭をいやいやと、振っている。
そんな子供らしい仕草のエドワードにロイは息を吐き、近づこうとしたが、

「大佐。なにやらかしたんですか?大将怖がってますよ?」
「またエドワード君を怒らすことを言ったのではないでしょうか?」
「泣くまで何を言ったんっスか〜?」
「あの・・あの・・、エドワード君が可哀相です・・・」

エドワードの前に立ちふさがっている部下達が、ロイを責めるように詰め寄った。

みんなエドワードのことが大切なのだ。
どんな過去があるかはくわしくは自分達は知らない。
だが、彼らの姿・追いかけている物を、仮にも軍人だ、長年見ていればだいたいのことはわかってくるだろう。
たった一人の弟を守るために、軍の狗と罵られる国家錬金術師の資格を12歳で取った。
本当なら親・大人の庇護のもとにいるはずなのに、子供だけでは辛いだろう長旅を、自分達の目的を叶えるために続けている。
自分達で選んだ道なのだから、尊重させてやりたい。

でも、小さい身体で頑張っている姿を見ると、甘やかしてやりたい、甘えさせてあげたい。
そう強く願うのだ。

そんなエドワードを泣かせるようなマネをした大佐に、詰め寄るのは当然のことだ。
いつも元気いっぱいで笑顔のエドワードを泣かすなんて、どんな酷いことを言ったのだ。
普段の大佐はエドワードをからかったり、怒らせたりばかりだ。
その分自分達が優しくしているのだが・・・。

大佐はエドワードのために手を尽くしているとは思う。
可愛がっているのだと思う。
手に入りにくい文献を取り寄せたり、各地の重要図書館の閲覧許可書を発行したり、賢者の石がらみで情報があったら教えている。
本当は優しく見守っていると思う。
大切にしていると思う。
エドワードが無茶・強硬手段に出ないために、こうして世話を焼いている。
でも、表には出さず会うごとに喧嘩をしている二人。
素直になればいいのだが、どうも上手くいかないらしい・・・。
今、上手くいこうと頑張っているロイだったが、そんなことは部下は知ってはいないことだった。

ロイは、内心舌打ちをした。
早くエドワードと二人で話をしたいのだ。
まだ自分の思いを伝えきれていないのだ。

邪魔をするな・・・。

「そこをどけ」

さっきまでの焦った声と表情ではない。
地底を這うような声だ。
その声を聞いたエドワードの身体かかすかに震えた。
ますます中尉に擦り寄ってきた。
いつもはどんな相手に対しても強気を見せるエドワードだが、ここまでなぜこの無能に怯えているのか?
そんなエドワードを後ろ手で守ってやるように、中尉は、

何があったが知らないが、この子は私が守らなければ!!と硬く心に誓ったのだった。

野心に満ちた瞳を部下達に向けた。
いまにも発火布で焼き殺しかねない勢いだ。
そんな瞳で睨みつけられた部下達は、一瞬ひるんだがエドワードのためふんばった。

けれども、部下達が一瞬ひるんだ隙を突き、するりとエドワードに近づいた。
エドワードは中尉の軍服に顔を埋めていたから、ロイが近づいたのに反応が遅れた。
みんながあっと、思った時にはすでにロイはエドワードの横側へ寄っていた。
はっと、顔を上げた時にはロイの秀麗な顔が、近くにあった。
中尉の横をすりぬけて、エドワードの左横にいた。
どうやらロイは、腰をかがめてエドワードの視線に合わせているようだ。

「エドワード。部屋に戻りなさい」

有無を言わさぬ声色でエドワードに命令をした。
顔は微笑んでいるが、底冷えするような瞳をしていた。
その瞳を見たエドワードは、また怖くなった。

なぜこんなに気弱になるのか、自分がわからない・・・。

だんだんと涙が込み上げ、いまにも泣き出しそうな勢いだ。

嫌だと主張するエドワードを尻目に、ロイは嫌々するエドワードの腕を掴み執務室へと連行しようとしたが、思わぬ邪魔がはいった。
怯えているエドワードの腕を掴んでいる上司の腕に向かって中尉がチョップをした。

「っすいません!大佐!!」

「中尉!?」

まさか中尉にチョップをされるとは思ってもみなかったロイは、叩かれヒリヒリしている腕を抑えながら驚き思わず視線をホークアイに向けた。
ホークアイはすまなさそうに自分の上官を見つめた。
いつもはしないそんな顔をしていては、怒るに怒れないロイ・・・。

あまり強く握られていなかったみたいで、エドワードの腕はすんなりロイから解放された。
それが合図のようにエドワードは廊下に面している扉へと脱兎のごとく走り出した。

「こら!!エドワード!!」

怒鳴りながら後を追いかけるロイ。

司令室に残された軍人達は何が何だかわからない状況で、二人を見送ることしか出来なかった。



**to.be・・・**


やっとこさロイエド子です。しかも初っ端からエド子に拒否られてるロイさん・・・;;惨めだねぇ;;
軍部の皆さん出張りすぎですから。でも、動かしやすいんだよね・・・;;
てかエド子の性格違いすぎる。弱すぎでごめんなさい;;
このあとはお決まりの展開ですので;;

*2005.5.19