***いつもの風景***



ここは東方司令部の司令室。
暑い夏はもう終わろうとしていて、涼しい秋風が東側の大きな続き窓から吹きぬけて、昼の気だるい雰囲気の中通りぬけていく。

特に主だった事件はなく、司令室内にいる数人の軍人達は自分にあてがわれた書類をもくもくと片付けていた。

心地よい風が眠気を誘うのか、ときどき欠伸をかみ殺す様子が見て取れる。


ばたばたばた・・・。


ーーーと、そこへ、厳格の雰囲気を漂わせている軍部内に似つかわしくない、騒がしい足音が聞こえてきた。
足音の主は寄り道をせず、まっすぐに目的地激しい勢いで向かってくる。

目的地にいるこの軍人達は、お互いに書類から顔を上げて、ふっと、顔をほころばせた。

もうすぐここへ来るだろう人物を想像して、騒がしくなるなあと思いながら皆で時計を見た。
皆考えていることは同じのようで視線が合った。
時刻はちょうど3時を示そうとしている。
ちょうどいい時間だ。


ばぁん!!


騒がしい足音の正体は小さな子供だった。


太陽の光を全てはね返しているいるかのような、神々しい艶やかな金髪。
その金髪より少し濃い目の、奥の深い、見ていると吸い込まれそうな金眼。
フード付き膝上の赤いコートを羽織り、その下に上下の黒い服を着ている。
どっちもよれよれで汚れている。
しっかり毎回洗っているとは思うが、ところどころほつれていて、糸が飛び出しているし、色が本当の色よりだいぶ色あせているように見える。
汚い・不潔という感じはないが、長旅の中でだんだんと使い古されているのが分かる。

だがこのスタイルを崩したくない。という感じが見て取れる。

黒の上下と赤いコートという組み合わせは、汚れが目立たない上に怪我をして血が出ても分かりにくい色だ。

何故この色を好んで着ているか、この子供の性格・信念がわかってくるだろう。


パタパタと赤いコートを翻し、ドアを蹴破らんかと思う勢いで司令室に入ってきたのは、言わずと知れた鋼の錬金術師殿だった。

「こんにちはっ!!」

と、大きな声で司令室にいる数人の軍人達に片手を大きく上げ、花が周りで飛ぶような笑顔で挨拶をした。


この子は男の子なのに(実際は女の子なのだが・・・。)とても綺麗な顔の作りをしている。
すっと筋の通った小さすぎず、大きすぎず顔にバランスよくのかった鼻。
くっきりとした意思の強そうな眉の下からは、大きい可愛らしい瞳がランランと周囲を見渡している。
唇は、ふっくらとピンク色したやわらかそうな肉厚でできていて、唇の端は上に引き結びられている。
触ったらプニプニしそうな、赤っぽい健康的なほっぺがさらにその子の可愛さを強調している。

軍部内の男達はこれで女の子だったらよかったのに・・。といってやまない。

まぁ、男でも絶大な人気を誇っているが。

今でも軍部内の廊下を歩いていたら、視線があちこちから向けられていた。
でも、鋼のは気付いていないようだったが・・。


鋼の元気の良い挨拶を聞いて、みんなは声を掛けよっこらっしょっと、重たそうな腰を上げて鋼のもとへ歩いていった。

こんなことはいつもの事だから、鋼のは皆が来るのをトランクを持ち直しながら待っていた。
めずらしくにこにこしている。
今日は機嫌がいいのだろうか?と軍人達は思った。
まあ、そんなことはどうでもいい。なにせ、この子供が珍しくいつもより早めに戻ってきたからだ。

この前戻ってきたのは約1ヶ月前だったと記憶している。しかも、いつも通りここの用件が済んだらそっけなく、あわただしく出て行くから。たいして話をする事もできないでいた。
だから、こんなに早く帰ってくるのは始めての事じゃないだろうかと思う。

いつもは自分たちが心配しているのをよそに、2〜3ヶ月はまったく帰って来ないうえに、定期連絡をすっぽかしてあちこち飛び回っている。
ひどい時は半年も司令部に顔を出さないで、連絡だけで済ませてしまったときもあった。 それは非常に寂しい。 しかも、ときどき新聞などに載っているから何事かと思って気が気じゃない。

自分たちの上司はしっかり定期連絡をしなさい!と何回いっても聞き入れこの子供達にいつもハラハラさせられっぱなしだ。


「おう!久しぶりだな。元気にしてたか〜。」

一番はじめに挨拶をしたのは、あらゆる上官の前でもいつも煙草を吸っているヘビースモーカーの金髪碧眼で鋼のより凄く背の高い優男風の男が、けだるそうに手を振って鋼のの頭をくしゃくしゃ。と音をたてて髪の毛をかき混ぜるようになでた。地位は少尉だ。

さっきのようなやる気のない顔ではなくて、仕事をほっぽりだして弟が来て嬉しいからいっちょからかってやろうという顔になっている。

「あいかわらずちっこいままだな〜。全然伸びてないじゃないか?」

カラカラと笑いながらちっちゃい錬金術師に、からかいをいれた。
間髪いれず、

「なにをぉ!?ちっこいってゆうな!!このマンネリ化してる煙草吸い魔が!!」

なんともひねりのない言葉を吐きながらタックルをかましてくる可愛い鋼。
でもそう言った顔は、どこか楽しそうで嬉しそうでもあった。
久しぶりにゆっくり東方司令部に来て皆と話す事ができるからなのかもしれない。

その他にいた軍人達3人もそれぞれ多種多様に挨拶をした。

ちょっと太目の大の犬嫌いだけど身体に似合わず頭が切れる者、地位は少尉。

「またなんか事件やらかしたんだってな〜。」

と、ニヤニヤしながら、でも鋼のを温かい目で見下ろしている。

「そうですよ。大丈夫だったですか?」

と、心配そうに事件の事を聞いてくる心優しい眼鏡を掛けてる青年、おそらく鋼のを抜かした中で最年少の者で一番好意を持てる顔つきをしている。地位は、軍曹。

「あんまり子供は危ない事をしてはだめだぞ。」

小さな子供を諭すように、でもたんたんといっているので、小さな子供が怯えて逃げそうな言い方で言ったのは、頬がこけていて全体的に痩せていて頼りないイメージのある者。地位は、准尉。

みんな、鋼のが来たことで仕事そっちのけで話し込もうとしている。
ちょうど3時のおやつ時間だし、みんなで休憩でも取るかという話に盛り上がっていると、そこへ

「あら?エドワード君。こんにちは。どうしたの?今回は何だかいつもより早く帰ってきたのね。なにか用事でも?」

と、軍部内でも数少ない唯一の女性、地位は中尉。が、鋼のが破壊しかけたドアから、苦労して書類を持って通ってきた。

金髪深い青い瞳をした、大人の女性をかもし出している女性は、鋼のに近づきながら尋ねた。


動く姿は百合、座っている姿は薔薇、を思わせるような美しい姿だがその姿からは想像もつかないような荒業を繰り出す時もあるので、ひそかに軍部内では恐れられている存在だ。

いつもは、無表情に近い表情をしているが鋼のがいると和らいだ表情になる。
だから、鋼のが来ている時は中尉は機嫌が良いので一安心だという軍部内では、そういわれているようだ。

ほんとに無事の姿が見られて嬉しそうな顔になるが、時々秀麗な顔が悲しみとも苦痛ともつかないような表情で鋼のを見ている時もある。

鋼のは本来の用事を思い出したように、ハッと顔を中尉の方へ向けた。

「こんにちは。中尉!そうだった、無能の大佐に協力してほしいものがあったんだっけ!」

雨の日は空気が湿気ていて火トカゲの錬成陣が描かれている発火布から指をこすり、全てを溶かしてしまうくらいの勢いの焔を出せなくなってしまうので、役に立たないので周囲の人は敬意を込めて、無能、と呼ぶ。

ちなみに命名の主は中尉である。

その名前を鋼のに教えたら最高!!と爆笑して、無能は泣き出し、部下たちは聞きなれた言葉だが笑うのをこらえ、中尉は大いに満足したのは余談である。

「大佐、居るかな?」

小さい錬金術師は子供のように、紅一点の中尉のもとへ細く小さい首をかしげながら尋ねた。


この子供は、いつも大人顔負けの態度・知識を繰り広げることがあるが、ふとした時に子供に戻るような感じだ・・。
実際には子供なのだが、いつもはそういう感じをさせないなにかが秘められている、ように感じ取れれる。と、ここに居る軍人達はそろってそう思っているだろう。

この違いはなんだろう。

きっとこの子供達が歩んできた世界の中で関係しているのだろう。


「無能の大佐なら、個人の執務室で書類に埋もれているわ。」


絶対零度の笑顔でさらりと言ってのけた。
仕事を溜め込むことが趣味となりつつある大佐はたぶん、たぶんこの美しい中尉から逃げ回り、逃げ回り、逃げ回り・・。
以下エンドレス・・。

子供の宿題ではないのに溜め込むなよな〜と鋼はいつも大佐に言っているが、大佐は一向に聞き入れてはくれない。
部下が迷惑してるのに!と、喧嘩になったこともある。(特に中尉のために)

そのツケが今清算されようとしている・・。
ーーが、はたして清算されるか問題なのだ。
大佐は仕事が嫌い・できない、のではないとは思うが、何故だかやらない。
むしろ有能の部類にはいるだろう。実際に、真剣に取り組んだのなら1日にかかる書類など、半日以下で終わらせる事ができるだろう。

隙を見つければすぐさま逃亡し(あらゆる出入り口から。窓とか、裏口など)町に繰り出し、ナンパに務めていることが毎日のように行われている。

ほとぼりが冷めたら軍部に帰ってくるか、中尉など直属の部下が街の循環だとかの名目をつけて探しにいくかしかない。


だが、今日は中尉が朝から捕まえて個人の執務室に閉じ込めて、溜まりに溜まっていた未裁決書類を片付けさせているらしい。
中尉が1時間ごとに執務室を訪れて、次から次へと書類を置いていく。
この期を逃したらまたいつ未裁決書類が溜まっていくか分からないので、これ幸いとばかりに、大量に書類を片付けさせている。


鋼の錬金術師は、またかよ・・・。
と重たいため息を吐き執務室から直接つながっている、大佐個人部屋へと足を運んでいった。


心の中は、こんなやつに協力を頼むのか・・。書類に追われている無能なんかに借りなんて作りたくないのに、という何とも情けない気持ちでいっぱいだったのだ。


そんな鋼の気持ちを同情してか、軍人達も哀れみの目で小さい鋼の背中を見つめていた・・・。

「んじゃまぁ、これより無能大佐の所へ行ってまいります!!」

ビシッと真剣な表情で下手くそな敬礼をし、軍人の顔を見渡した。
それが可笑しくて可笑しくて、軍人たちの顔に笑みが広がる。

鋼のもにこっと表情を改め、ドアノブに手をかけた。





***END***



なんのこっちゃ。
とりあえず、軍部から見たエド子です。私が書く軍部はこんな感じで皆エド子が大好きなのです。
皆から命いっぱい愛されてます。軍部に来ると大抵こんな感じでお出迎え。
アルフォンス普通にスルーされてるし・・・。
ロイさんも出てこないし・・・。
全部ロイエド子とか豪語しときながらなんだよこの始末;;
軍部→エド子の構図大好き☆

*2005.5.10